第2話. 画家と家族

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 手術はあっという間に終わっていた。私が覚えているのは、真四角で白い部屋の中に入ったことと、見慣れない大きな機械の上に寝かされたことだけだった。  ベッドの上で目を覚まし、看護師から、すべて問題なかったと言われても信じられないくらい、私の体には何の変化もなかった。強いて言えば、頭が重い感じはしたが、2、3時間休息をとると回復してきた。  帰り際、お喋り医師からは1週間程度の養生を言い渡され、お土産に治療証明書と、父へよろしく言っておいてくださいとの伝言を受け取り、本当にその日のうちに自分の足で私は病院を後にしていた。  この半年間の憂鬱が馬鹿らしくなってくるほど、実にあっけない幕切れであった。実感はまるでなかったが、私は開放的な気分で夕暮れ前の午後の街を歩いていた。  渡刻許可証の日付は、今日一日中までであった。夜まではまだ少し時間がある。私がこれから先見ることのない未来の街を、少し散策するくらいなら許されるだろう。  思えばこの人生、時間渡航という技術が発展した世の中で、私がそれを利用したのは数えるくらいしかなかった。確かなにかのコンクールの締め切りに間に合わなかった時だったかと思う。結果は言わずもがなで、それ以来、馬鹿らしくなって時間移動することもなくなった。その時ですら1週間程度巻き戻しただけだった。おそらく今回の30年の時間旅行は、私の人生において最大の記録となるだろう。  なぜならもう、過去に戻ろうと思うことなど恐らくないからだ。でも1つだけ―もしマシャリーとやり直すことができたら、私はそれを望んだかもしれない。しかし、それももう手遅れなことはわかっていた。一体どれ程まで過去にさかのぼれば充分なのかもわからなかった。それにもう1度繰り返したところで、うまくやれる自信はなかった。結局のところ私はもう、残された未来をただ消化するしかないのだ。
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