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人の中身は変われども、夕日に包まれた街は相も変わらず、心地よい喧騒とどこかから漂う家庭の匂いで満たされていた。技術は進歩していても、この街の景色は、私が知っているものとなんら変わりなかった。よく知った街なのに、私を知る人は誰もいない―奇妙な感覚であったが、それは不思議と私の気持ちを軽くしてくれた。
近くのベンチに腰を下ろして、街の風景を描いた。そんなものを描いたのも久しぶりだった。
ふと私は、画家として今まで成し得なかった野望が再燃するのを感じた。世間からの評価―それを受けることが画家としての成功とは一概に言えないが、自分自身の描いた絵がどれくらい評価されているのか、未熟にも私は気になった。
画家というのはその死後に作品が評価されるといったことが少なくない。本音を言ってしまうと、自分もそういった類に属するのではないかという期待があったのだった。
もはや認めざるを得ないが、私の絵は現在のところ全くとして売れていなかった。そのことで、妻や娘に多大なる迷惑をかけてきたことは、私とて重々承知していた。娘が私を毛嫌いする要因のひとつにもなっていたと思う。その評価を覆すことができていれば、私だって少しは堂々と娘に会いに行くこともできただろう。
私にも意地があった。しかし評価を覆すには、私に残された時間では足りないかもしれない。きっと私の絵が世の中に認められるのを知る前に、私はこの世を去ってしまうだろう。
私の心はいつだって悲哀と傲慢の塊だった。自分の人生を懸けてきた物事が、他人に評価され、あまつさえ見向きもされない。かといって、それらを他人の感性の不足とするのは、大衆の心に届かせることもできない自分の才能と情熱の至らなさを認められないだけではないだろうか。
自分のせい、他人のせい―いくら理由をこねたところで、現実として私の作品は誰に認知もされない自己満足のものだった。それはすべてを犠牲にしてきた自分の人生を、真っ向から否定されるようだった。
わずかでもいい―ひと声の称賛を手に持って、この人生に別れを告げたかった。
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