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「まったく、あいつ逃げ足だけは早いんだから。ねえチル、どっちに行ったかわかる?」
「あ、あっち」
そう言ってチルは、足に絡まったツタをほどきながら、ちょうど子ども1人分だけ押しのけられた草木の洞窟を指さした。
ミリーは信じられないといってため息をつき、ツタと格闘するチルを手伝ってやった。
「わたしが先に行くからついて来てよ」
ミリーは小柄なチルよりもわずかに背丈が大きかった。ミリーは華奢な体に似合わず、四方八方を囲んでいる草木をどんどんと押し分けて先へ進んでいった。チルはその後ろをついていくだけ―と言っても、押し分けられた草木はすぐに元に戻ってしまい、それに苦戦しているうちにミリーの背中はどんどんと離れてしまうのであった。
草木を相手にすること数分、視界を覆っていた緑の壁は突然姿を消し、2人は1本の小道へと出ていた。ムシムシした熱気から解放され、爽やかな風が2人の顔を扇いだ。
その小道はもう何年も使われていなさそうで、いたるところに雑草が生え、土が見えるところもまばらであった。ちょうど馬車2台分は通れそうな幅があり、左右の木々は今やその境も曖昧になっているが、道に沿ってきれいに整備されていたのであろう。
「こんなとこ、初めて来たね」
森の中を抜けてほっとしていたことに加え、新たな場所の発見による高揚感もあった。そのせいか、2人は友達を追いかけていたことなど忘れ、ゆっくりとした動作で小道を歩き始めた。
ところが、まだ3歩と歩かないうちに、その小道の先に忘れかけていた目標物を発見した。
「あっ」
2人は思わず口元に手をあてた。幸い、プンスターは呆けたように空を眺めており、まだ2人の気配には気づいていないようだった。
「捕まえたっ」
見つからないように、2人は木々の陰に隠れながらこっそりと近づいた。そうしてついに、目標物の捕捉に成功したのであった。
嬉々としてはしゃぐ2人に大人しく体中をロックされながらも、まったくお構いなしといったふうにプンスターの目はあるものに釘付けになっていた。
そのようすに気がついた2人は、彼と同じものを目にし、揃いも揃って大きな声をあげてしまった。その声は森の中を響き渡り、小鳥が数羽、驚いて空に飛び立っていった。
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