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私は街にあるいくつかの画廊を見て周った。1軒目、2軒目と見覚えのある絵が飾られていることはなかった。むしろ、ふと目を奪われる絵があるかと思うと、30年前にはまだ産まれてもいない若い画家の絵であったりして、堪えきれず店を飛びだした。
「ここにはドルガ・ハボットという人の絵は置いてあるかな」
3軒目は画材店であったが、そこの主人には直接尋ねてみた。もう他人の絵を見るのも億劫だった。
私が知る限り、この街で絵画を取り扱う最後の場所だった。主人は私の顔なじみ―ではなく、その息子に引き継がれていた。そして、その息子からも私が聞きたかった答えを得ることはできなかった。
「そういえばその人、親父の知り合いかもしれないな。もしかしたら倉庫の中にあるかもしれない・・・良かったら探してきましょうか?」
「いえ、飾られていないのなら、わざわざ出してもらわなくて結構です」
彼の誠実な申し出を断り、私は店を出た。
私はすっかり打ちのめされた気分で街を歩いていた。家路を行く人々の楽しげな顔も、にぎわいを増していく夜の街の様相も、私の目には映っていなかった。辺りは暗がりに包まれていたが、今日のうちに過去に戻らないといけないことなど、すっかり頭からなくなっていた。きっとどこかにある未来の栄光を見つけないうちに、過去になんて戻れるわけはなかった。
私のこれまでの人生は無意味だったのだろうか。これまで払ってきた多くの犠牲に労いの言葉をかけることは許されないのだろうか。このままでは妻に、娘にどんな顔をして会えばいいのだろうか。
いくら嘆いたところで、私の描いた絵は30年後の未来のどこにも存在しなかった。その示すところは、あと5年、10年―何年生きられるかはわからないが、これから先いくら絵を描き続けたとしても、その絵は誰に見初められることもなく、埃を被り忘れ去られていくという酷なものだった。
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