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それはこの森の片隅にはとても似つかわしくない、なんとも立派な洋館であった。単純な大きさだけでも、そこらの家の10倍はありそうなものであったが、それ以上に3人をその場に釘付けにしたのは、長い間放置されていたようであるにもかかわらず、その屋敷から漂ってくる風格というか―威圧感のためだった。
白い外壁は長年の雨風を受け、多少は色褪せていた。赤茶けた屋根は所々に塗装が剥がれていた。しかし、それ以外は至って健全で、コケむしてツタが絡んでいるわけでもなく、窓は割られることもなく、すべて当時のままの様相を残しているように見える。さながら、なにか見えない力がこの屋敷を守っているかのようだった。
「歩いて周ってみようぜ」
プンスターの呼びかけに2人は頷いた。
今しがた普通の10倍といったこの屋敷だが、正確に言えば、3人の立っている位置からはその全貌を把握しきれないほどであった。もしかすると、歩いて周ったらそれだけで5分や10分かかることだって充分にあり得た。
森の中はやけに静かに感じられた。それは先ほど小鳥が全部いなくなってしまったから―というわけはなく、屋敷がひっそりとした空気を辺りに強制しているみたいだった。3人が歩くたびに、踏みつけられる―というよりも蹴上げられる、ざっざっという草の音がよく聞こえた。
「ねえ、やめなよ」
少し目を離したうちに、プンスターが窓から屋敷の中を覗き込もうとしていた。前々から隙を与えぬようにと、ミリーはプンスターの動きに注意を払っていたのだが、緊張感に飲まれて周りが見えなくなっていた。ミリーの声はやめてほしいと思う気持ちよりも、怖さの方が勝っているようで、弱々しいその声にプンスターの行動を止める力はなかった。
「一体、こんな大きい家に誰が住んでるんだろうな」
長らくこの森を遊び場としていた3人であったが、こんなところに豪華な屋敷が建っていることなど知りもしなかったし、そんな話を大人たちから聞いたこともなかった。
「住んでた―でしょ。きっと昔の偉い人かなんかが住んでたんだよ」
チルの言葉にはそうであってほしい―という願望が込められているようであった。そうでもなければ、森のはずれとはいえ、勝手に他人の敷地に入り込んでいるわけで―チルはそんなことを気にしていた。
「そうかなあ・・・でもさっき覗いた時、奥の部屋で明かりが見えたけど」
「えーっ」
チルとミリーは驚いて声を出し、またしても大声を出した口を慌てて押さえつけるのだった。怯える2人のようすを面白そうに見ていたプンスターは、やがて気の毒になって「冗談だけど」と付け加えた。
プンスターは2人から然るべき制裁を受けた。
そうしているうちに、3人はようやく屋敷の角に突き当たった。どうやら、今まで通ってきたところは、屋敷をざっと長方形で例えたところの長辺のひとつ―屋敷の裏側であるようだった。
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