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屋敷の反対側は、太陽の光を正面から浴びていた。今まで見ていたものが、その美しさの10分の1も発揮していなかったのではないか―と思うほど、当時の美しさの片鱗を3人に見せつけていた。くすんでいた外壁は白い光を放ち、赤茶けていた屋根は太陽を照り返して輝いて見えた。その明るさに3人の気分もなんだか晴れてくるようだった。
屋敷の中央あたりまで進むと、玄関―という呼び名では失礼にあたりそうな―堂々とした屋敷の入り口が現れた。その入り口の向かい側は、雑草だらけで今や見る影もないが、庭園の跡のようだった。アーケードはさびれ、敷き詰められたレンガの道はあちこちがひび割れ、隙間から雑草が伸びていた。今日のように天気の良い日でなければ、さながら廃墟感を盛り上げてくれそうなものであったが、穏やかな昼の陽ざしを受けて、古びた公園のような、どこか懐かしい落ち着いた雰囲気であった。
3人は一通り庭園を散策したのち―といっても、雑草以外に見るものはなかったが―いよいよ本丸に乗り込んでみようかという話になろうとしていた。
それを最初に見つけたのはチルだった。彼は言葉にならない声を発し、そして危うく気絶するのではないかと思うほど顔が青ざめていた。これはチルのちょっとした特技だ―とほかの2人は思っていた。しかしこの時ばかりは、そんなチルの(よくある)異変も、それが正当な反応であると認めざるを得なかった。
その時3人が恐れたものは、これといって恐ろしさの欠片もない、ただの老人だった。老人が壊れかけたベンチの上で昼寝をしていただけだった。自分たち以外の人間がいたこと、そしてその存在に今まで全く気がつかなかったこと、この2つの予想外の出来事に、寂れた館というロケーションが相まって、瞬間的なパニックを引き起こしただけに過ぎなかったが、あいにく3人はそんな冷静な分析をしている余裕を持ち合わせていなかった。まるでこの老人を悪魔や幽霊と同類の、自分たちに悪意を向けうる者かのように思い込み、睨まれてもいないはずなのに―蛙のごとくピクリとも動けなくなった。
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