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一方で老人の方はというと、当然だが、ただの爺さんなのである。あくびとともに起床し、3人のことなどそっちのけで背伸びをし、放屁をし、またあくびをし、のそっと立ちあがる。そこでようやく、直立してこちらを見ている3人の子どもたちの姿に気がついた。
「お、どうした。お前たち。そんなところで固まって」
老人は単に寝ぼけているだけともいえない、気の抜けた調子で3人に話しかけた。一連の動作を見ていた3人は、急速に緊張の糸がほぐれてきたようで、すらすらと言葉を交わすことができた。
「ごめんなさい。わたしたち、えっと・・・道に迷ってしまって」
咄嗟の言い訳はミリーの得意分野だった。
「おお、そうか。どうりで木の枝なんかが頭に刺さっているわけだな」
ミリーとチルは反射的に頭をはたいたが、なにもついていなかった。老人はからかうように眺めている。
「それじゃあ、帰り道が知りたいと?」
ミリーはこの老人のただ者でなさを感じ、軽率な言い訳をしたことを後悔し始めていた。
「いや、もう少しここで遊んでいきたいです」
プンスターの言葉に、思わず2人は彼の方に首を振り向けていた。その目には非難の色が浮んでいたが、プンスターが恨みがましい4つの瞳を見ることはなかった。
「ここらで遊び場になるようなところはあるかな。森の中の方がよっぽど面白いかと思うけどな」
老人はとぼけているようで、どこか好戦的な目をしていた。
「あそこ」プンスターの指は老人の背後の古びた大きな屋敷を指していた。
「あの家って入れないの?」
老人はそれには答えず、3人に背を向けた。その目はプンスターの指さした屋敷を見ていたのだと思われる。どこか掴みどころのない雰囲気が漂っている。
「ところでお前たちはいくつだ?」
突然の質問に戸惑いつつも、プンスターは誇らしげに「10才」と答えた。それはあまりにも自然な口調で、2人はプンスターが1ヶ月分鯖を読んだことについて、指摘はしなかった。
「そうか」と言って、老人は屋敷の方へと歩き始めた。その足取りは見た目よりも軽やかでプンスターは早歩きでないとついていけなかった。その後ろでチルとミリーは困り顔をして、小走りで追いかけていくのであった。
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