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「ああ、カギが閉まっているみたいだな」
老人の話し方はどこか白々しい感じに聞こえた。残念無念といったように大げさに肩を落とすと、「どっこいせ」と玄関の段差に腰を掛けるのであった。諦めきれないチルとプンスターはドアノブをカチャカチャ回し、ひょっとしたらを試みている。
2人のことは放っておくことにして、ミリーは老人の前に膝を抱えて座り込んだ。老人はなにも気にしないように、黙々と口になにかを運んでいた。
「・・・さっきから、なにを食べているんですか?」
ミリーは気になって訊ねた。思えばこの老人のことをなにひとつ知らない。老人は食べる手を止め(正確には止まり)「ドングリだ」と言って、地面に落としたものを拾って口に入れた。
「お前も1つ食うか?ボインになるぞ」などと言って笑ったが、ミリーは無視して根気よく質問を投げかけた。
「ここの家って、誰の家だったんですか?」
ドングリを全部食べ終えてしまった老人は、大きくあくびをして、ミリーの方に少し体を向けた。その目はなにもかも見透かしているようで、ミリーはそわそわと腰の位置をずらした。
「俺の家だ」
「あっー」
どうやらプンスターが毎度のごとくやらかしてしまったようだった。チルはおろおろし、ミリーは「またやった」とため息をついた。あいつは日に3回はアクシデントを起こさないと気が済まないのだろうか。
「いや、だってこのドア、こんな簡単に外れると思わないし」
プンスターは必死になって弁解した。確かに長年使われていなかったドアノブは、久しぶりに酷使されたことによって、いとも簡単に外れてしまったのだ。
「まあ、気にしなくていいぞ」
老人は朗らかに言った。こうも簡単に許されると、必死に言い訳をしていたのが恥ずかしくなって、プンスターとチルは素直に謝った。そしてまたすぐにいつもの調子に戻るのであった。
「ていうか、ここが爺ちゃんの家って、本当かよ?」
老人は何ともあいまいに「おお」と喉を鳴らした。
「ええ?だってそんなお金持ちに見えないじゃん」
あまりにストレートなプンスターの言い方を2人が注意しなかったのは、彼らもそう思っていたからだった。実際、老人はぼろきれをまとったような服装をし、伸び放題の白髪は、同じように四方に荒れまわる髭との境がわからなかった。そしてそれらは老人が笑うごとにゆさゆさと揺れ、なにかが舞うのだった。
「はっは。確かにな。確かに俺はこの家には住んでいなかったな」
老人の目はどこか遠くの方を見ていた。
「それじゃあ誰が、ここに住んでいたんですか?ぼくたち、こんなところに、こんな立派な家が建っているなんて、今まで聞いたこともなかった」
最も早く反応したのはチルだった。森の奥にひっそりとたたずむ屋敷の謎は、ついにチルの好奇心を焚きつけたようだった。
老人はじらすように口をつぐんだ。3人は待ちきれないようすで、老人の口の動きに視線を集中させていた。
「気になるんなら、自分たちで見に行ったらどうだ?」
少年たちはぽかんと口を開けていた。春の風がその間をゆっくりと吹き抜けた。
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