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「どうやって?」
「コソ泥みたいに窓でも割って入ったらいいじゃないか」
老人がからかっているとも知らず、プンスターはさっそく手ごろな石を探し始めた。
「ばか。ほんとにそんなことしないでよ。・・・ねえ、お爺さん、ほんとはもっといい方法を知っているんでしょう?」
「過去に戻って見てみればいいじゃないか。お前たちなら20年前だって戻れるだろう」
老人はさも当然のように言った。ミリーはもちろんそれが可能なことは知っていたが、現実的な案ではないことはわかっていた。
「でも時間を移動するのってお金がかかるんでしょ?わたしたちそんなお金持ってないよ」
「そんなもん、俺がどうにかしてやるさ」
そう言うと老人は自身の身を包むぼろきれの中に手を突っ込み、なにかを探し始めた。まさか老人の懐から札束が出てくるとは到底思えない。
「えーと、どこにしまったかな・・・」
3人はそのようすを興味津々に待った。
あちこちをかき回して、老人はようやく1つの懐中時計を取り出した。それは蓋もなければ(よく見れば蓋がついていた金具の形跡はあった)装飾もない地味なもので、よく使い込まれたように金色の縁がすり減っていた。
「あった、あった。よし、お前たちこっちへ来い」
老人は3人を手招きした。3人は飛ぶように老人の手元へ集まった。それはなにかいけないことをするような、秘密めいた集会の雰囲気があった。
「え、それってもしかして、巻き戻しの時計?なんでお爺さんが持っているの?」
「そんな細かいことどうでもいいだろう。それともここの家主を見に行くのはやめにするか?」
チルの問いかけに老人は少し顔をしかめた。すかさずプンスターも口をはさむ。
「そうだぞ、チル。細かいことなんか気にすんな」
チルは腑に落ちなかったが、反論する勇気もなく力なく頷いた。それを見て、老人は懐中時計の操作を始めた。
「この家に人がいたころだから、40年も戻れば大丈夫だろう」
そう言いながら老人は懐中時計の上部にあるネジのような金具を右に回し始めた。その動きと連動して、時計の長針が動いている。懐中時計には、普通の時計でいえば1から12が書いてあるところに、5から60の数字―さながら分単位の文字盤のよう―があった。そして時計の長針は40のところでピタッと止められた。盤の中にはもう1つ、ひとまわり小さな時計があったが(こちらは普通の時計と同じように1から12の文字盤であった)こちらの針は動かされることはなかった。
老人は「よし」というと、今度は金具をカチ、カチと2度指で押した。
「これで準備ができたな。このボタンをもういっぺんカチッと押せば、お前たちは40年前に戻れる」
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