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準備は本当にそれだけのようだった。なんとお手軽な時間旅行であろうか。老人はなんとも簡単に「さあ、行ってこい」と言って、懐中時計をチルに手渡した。
「え?お爺さんは行かないの?」
ミリーは驚いて尋ねた。老人は少し考えて、それからこう言った。
「俺は行きたくても行けねえんだ。なんせ40年前も俺は生きていたからな。法律違反になっちまう」
3人は不安になって、黙りこくった。
「大丈夫だ、ここの屋敷の主人は俺の知り合いだから。おっとそうだ、ついでにこいつをここの娘に渡してやってくれ」
そう言って老人は貝殻でできた腕輪をミリーに手渡した。
「簡単な手土産だ。そいつを渡してやればきっと大丈夫さ」
ミリーは真剣な面持ちで頷いた。
「よし、じゃあ、そろそろ行こうか。もたもたしてると時間はどんどん減っちまう。時は金なり、だ。それと日が暮れる前には帰ってこい。森を抜けられなくなっちまうからな。そのボタンを3回押せば、またこの場所に戻って来られるから」
3人はそれぞれに返事をした。ほとんどは緊張してうまく声になっていなかった。
3人は懐中時計を掴んで、親指を金具の上に重ねた。
「わたし、時間を戻るのなんて初めて」
ミリーの言葉に2人は頷くだけだった。
「じゃあ押すぞ。せーの」
プンスターの掛け声とともに、3人は親指に力を込めた。瞬間、辺りはまばゆい光に包まれて、3人の姿は跡形もなく消えた。
古びた屋敷の前に1人取り残された老人は、満足げに笑みを浮かべていた。
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