とりあえず。好きなら好きって言えばいい。

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「僕もハイ、コレ」  受け取った茶封筒の中身をみたら5万円がはいっていて、菜々緒は大きく目を見開いた。 「お金貸してほしいって話だと……」 「ちがうよ。テレビのオーディションも受けまくって仕事が取れたんだ。貰ったギャラを菜々緒に渡したくて。いつまでも菜々緒に甘えてられないからさ」  巧は舞台にやたらこだわっていて、テレビの仕事を生意気にも避けていた。 「菜々緒も役者も、どっちも諦められない。死にものぐるいでやるから。やっぱり一緒にいて。苦労かけちゃうけど、ホントがんばるから」 巧は菜々緒を愛おしげに見つめ、そっと抱きしめた。 その温もりは、間違いなく、本当に好きな人は誰なのかを、教えてくれている。もう後悔しない。菜々緒はそう心に誓って何度も何度も巧の頭を撫でる。けれどその髪の毛がなぜか少し臭う。 「巧、臭い?」 「あ、やっぱり? テレビの仕事、ドブに落ちる役だったから。何度も洗ったんだけどなあ」 おっとりそう言って自分の匂いをくんくんかぐ巧に、菜々緒はまた吹き出してしまった。多少ドブ臭くても、気にならないくらい、巧のことが好きな自分にも呆れながら。  お金も未来の確証も、なんにもない状態。それでも小さな幸せを噛みしめる2人がそこにいた。
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