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クーちゃん、またオモチャを散らかしてる!お母さんが今日もぼくを怒ります。
クーちゃん、また新聞をグチャグチャにする…お父さんが今日もぼくに幻滅します。
ぼくはどうやらダメな犬の様です。
御主人様の小学五年生の瀬奈ちゃんもいつもクーちゃんはおバカさんだね、と言って笑います。
忠犬ハチ公のモノガタリ、皆で観ていたテレビで賢い犬のお話しが放送されていた。ハチは死んでしまった御主人様を永遠に待ち続けて、そして待ち続けた駅で、今でも石になって御主人様を待ち続けている。
瀬奈ちゃんもお父さんもお母さんも感動して泣いていた。待つくらいだったらぼくでも出来るよ?ぼくは尻尾を思い切り振ってアピール!
クーちゃんには絶対無理ね、とお母さん。
クーちゃんは待つのが苦手だからな、とお父さん。
クーちゃんはおバカさんだからね、と瀬奈ちゃん。
待つくらいならぼくでも出来るのに…なんだかぼくはションボリしてしまいます。
ハチの次は…キュウだから、だから…次はクーちゃんの時代だ!と瀬奈ちゃんが笑ってぼくを抱っこしてくれて、クーだからキュウ…苦しいこじつけだなとぼくは思う。でも嬉しくて瀬奈ちゃんのほっぺをベロンベロン舐めるんだ。クーちゃんやめてよ〜と瀬奈ちゃんがゲラゲラ笑う。ぼくはますますベロンベロン。
クーちゃんは石になるんじゃなくて、星になるんだ、我が家の星に!我が家のアイドル、クーちゃん!瀬奈ちゃんにそう言って貰えてぼくが嬉しすぎてオシッコをちびりそうになった事は皆には内緒だよ。
実際ぼくは御主人様である瀬奈ちゃんを毎日いつも待っていた。小学校から帰って来るのを、塾から帰って来るのを、今か今かと待ち侘びていた。でもジッとしているのが苦手なぼくは家の中をウロウロ、オモチャをガサゴソしながら瀬奈ちゃんの気配がするのを待っている。そして瀬奈ちゃんが玄関を開ける音や自転車を止める音を察知すると、ぼくはワンワンと吠えてお出迎え。うるさい…と瀬奈ちゃんやお母さんにはすこぶる評判が悪かったんだ。
吠えてはいけません、鳴いてはいけません。そう教えられてもぼくは嬉しい気持ちを抑える事が出来ない。だからおバカさんだねと皆に言われるのかな?
クーちゃんのおバカさん、と言って瀬奈ちゃんはいつも優しく抱っこしてくれる。それがぼくはいつも嬉しくて、ずっとおバカさんでイイかな、と思うんだ。
瀬奈ちゃんがある時から家に居ない日が増えて、ぼくはなんで?なんで?とさみしくてワンワン泣いたりオモチャを散らかしたり、ますますおバカさんになってしまった。
時々帰って来て瀬奈ちゃんはいつもと変わらずぼくを可愛がってくれるけれど、何処に行ってたの?何してたの?と出来る限りの愛くるしい瞳で瀬奈ちゃんを見つめるのに、瀬奈ちゃんは、すごく楽しい所に行ってるんだよ、クーちゃんは絶対に連れて行ってあげない、と意地悪を言うんだ。ひどいよ瀬奈ちゃん…ぼくは忠犬ハチ公みたいに瀬奈ちゃんの事待っているのに…
瀬奈ちゃんはますます家に居ない日が多くなって、ぼくは面白くなくて、部屋のあちこちにお漏らしをしたり、訳もなく吠えたり、ソファを噛んだりしてお父さんとお母さんを困らせた。クーちゃん!良い子にしなきゃダメでしょ!お母さんはついに激怒した。
「そんなんじゃ…瀬奈が悲しむでしょ…瀬奈は病気で頑張ってるんだからクーちゃんも良い子にならなきゃ…」
ぼくは何も知らなかったんだ、と愕然とした。
長い間留守にしていた瀬奈ちゃんが久しぶりに家に帰って来た日、瀬奈ちゃんは元気が無くてお父さんに抱っこされていて、まるでぼくが瀬奈ちゃんに抱っこされているみたいだった。そして瀬奈ちゃんは細くなった手でぼくの頭を撫でてくれた。
クーちゃんのおバカさん、いつもの様にそう言って瀬奈ちゃんはニッコリ笑った。
「クーちゃんはおバカさんでいいんだよ、ハチみたいに石にならなくていいからねこの家の星になってね」
ぼくは瀬奈ちゃんの手をペロペロ舐めた。一生懸命舐めた。そして瀬奈ちゃんは、クーちゃんありがとう、もう瀬奈の事待たなくて良いからね、と言った。
その日を最後に瀬奈ちゃんが家に帰って来る事は無かった。ぼくは悲しくて寂しくて、クーンクーン、ワオーンワオーン、と毎日鳴いた。鳴いてるぼくをお父さんもお母さんも怒らずに、皆で、皆でいっぱい、いっぱい泣いた。
それからもぼくは元気にオモチャを散らかし、待てを待たずにごはんを食べている。相変わらずワンワン吠えてお母さんに怒られるし、新聞をグチャグチャにしてお父さんを困らせている。瀬奈ちゃんとの約束だから、今まで通りおバカさんでいる事に決めたんだ。この家の星になる事に決めたんだ。いつか本当の星になるまでー
その時瀬奈ちゃんはぼくの事を褒めてくれるかな?
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