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恥さらしの融通手形
「金がない!」
神谷総司の声は、うめきに近かった。
「あと5日しかない。今月7日決済の手形、5000万円分が落とせない! 不渡りになる。……神谷百貨店はつぶれる!」
落ち着きなく、涙目で社長室を歩き回る。
A県の中心部に60年余り、本店を構えている老舗の3代目は、弱冠28歳の青年でありながら、人生ゲームの敗北者たる運命を辿ろうとしていた。
そのときだ。
内線の電話が鳴った。
『社長。三井楓というお客様がお見えですが――』
「三井? 誰だ――いや、待て。大学の同級生だ。通してくれ」
数分後、セミロングの髪型にスーツを着た女性が現れた。
「お久しぶり。大学卒業以来だから、6年ぶりかな?」
「もうそんなになるかな。だけど、昔と変わってないね」
「お世辞を言わないで。もうわたし、アラサーよ?」
「年食ったのはお互い様だ」
冗談を飛ばしながらも、神谷は内心、いささか顔を引きつらせていた。
楓とは大学時代、付き合っていたのだ。同じアパートに同棲していた。
しかし神谷が大学を出て、家業の百貨店を継ぐと決まったとき、
(僕は若手社長になるってことで、ずいぶん周りの女の子にチヤホヤされて。それで楓を――捨てたんだ)
お互いに、初めての彼氏と彼女だった。
それなのに――
いま思えば酷いことをしたと思う。
だがその楓が、なんの用件なのか?
そして自分も、どうして楓をこの部屋に通してしまったのか。
(決まってる。楓はA県で一番大きい銀行――A銀行に就職したからだ。僕は彼女を通して、A銀行から金を借りたいんだ……)
あまりに虫のいい発想なのは承知していた。
それでも、溺れる神谷は元カノをもつかみたかった。
そうこうしていると、楓のほうから話題を切り出してきた。
「神谷百貨店の経営、よくないんだって?」
「よく知っているね。さすがA銀行の行員」
「問屋さんの間じゃ有名よ。『神谷は危ない。うかつに取引をしないほうがいいぞ』――ってね」
「お恥ずかしいが、すべて事実さ。祖父の代から続いたうちも、いよいよ終わりだ」
「……助けてあげようか?」
その言葉を待っていた。
だが神谷は、元カノへの見栄もあって、
「えっ、どういうことだ? まさかA銀行がうちに融資してくれるとでも?」
いかにも、(考えもしていなかった)といった調子で返した。
すると楓は薄い笑みを浮かべて、
「A銀行は無理よ。神谷百貨店は土地も建物も、とっくに他の金融業者が担保に取っているじゃない。そんなところに銀行はお金を貸さないから」
「本当によく知っているな。……それについてもその通りだ。しかしA銀行が金を貸してくれないのなら、君はいったいどうやって、うちを助けてくれるというんだ?」
「これはA銀行の行員としてでなく、わたし個人としてお話しするんだけど」
楓は真顔になって言った。
「わたしの知り合いに、手形の交換先を探している社長さんがいるの。そのひとを、あなたに紹介してあげようと思っているのよ」
「融通手形を切り合えっていうのか!?」
楓の一言でピンときた神谷は、しかしさすがに声を大きくした。
それは経営者として、激しい信用失墜に繋がる手段だったからだ。
言うまでもなく手形は、商取引があってこそ発生する。
例えば業者Aが、業者Bから10万円で商品を購入する。そして、
『商品の代金は7月5日に支払います』
と言う。
だが口約束だけでは双方不安なので、
『これがその証拠です』
と言って、業者Aは業者Bに、紙を渡す。
紙には、お互いの名前や取引の金額、取引年月日などが細かに書かれている。
これを『約束手形』という。この手形がある限り、業者Aは必ず7月5日に10万円を支払わなければならない。
それは手形の所有者が変わっても同様である。
業者Bは、他者に手形を譲ることも可能だが、そのときも業者Aは手形の所有者にやはり10万円を支払う義務があった。
もし支払うことができなかったら、『1号不渡り』とされ、日本中の金融機関に「お金を払うことができなかった企業」としてその名前を通知され、今後の企業運営に大きな支障をもたらす。
そして半年以内に『1号不渡り』を2回出した場合、その企業には「銀行取引停止」の処分がくだされ、2年間、金融機関と取引ができなくなるのだ。そうなればもう、その会社は倒産するしかない。
神谷がいま苦しんでいるのは、まさにこれだった。
5日後に決済される予定の手形、5000万円分が支払えないのだ。
『1号不渡り』は目前に迫っていた。1度でも不渡りを出せば、神谷百貨店に融資している金融業者は、債権の全額回収にかかるだろう。百貨店の土地も建物も備品も、ことごとく業者の手に渡る。神谷は経営者失格、老舗を潰した駄目な3代目の烙印が押されるだろう。
(だからって、融手を切り合うなんて)
手形は他者に譲ることができる。
一定の利息や手数料を支払うことで、銀行や金融業者に受け取ってもらうこともできる(これを一般的に『手形を割り引く』という。例えば――100万円の手形は、1万円の手数料を払って銀行に引き取ってもらうことで、99万円の現金を得ることができる、というように)。
この特性を利用するのが『融通手形』だ。
例えば資金繰りに困っている企業Aと企業Bが、お互いに示し合わせて、実際には商取引がないのに、100万円の手形を出し合う。
企業Aと企業Bは、その手形を銀行に持ち込んで、現金99万円を得ることができる。
企業Aと企業Bはひとまず99万円を手に入れるので、目の前の『1号不渡り』を避けられる……。
(だがその手形だって、結局は決済日になったらお金を払わないといけないんだ。融通手形を切り合うのは一時しのぎでしかない。……楓はどうしてそんな話を僕に持ってきたんだ!? それでも銀行員か……)
「元カレへの助け船だと思ってほしいな」
神谷の内心を見抜いたかのように、楓は言った。
「融手の切り合いはもちろん悪手よ。そんなことは百も承知。だから銀行員としてではなく、わたし個人として話をすると言ったじゃない」
「同じことだ。銀行勤めの人間が提案する金策とは思えないな」
「だけどいまのあなたに打てる手は限られているはずよ。他にどんな方法があるの? 金融機関はいまの神谷百貨店には絶対に資金融資しないでしょう。
そして目の前の危機を回避すれば、やがて夏のボーナスシーズンもやってくるのよ。それに合わせてセールやイベントを実施すれば売上を得られる。そのお金で手形の決済をしたらいいじゃないの」
「その論法は、あまりに楽観的過ぎる……」
そう言いつつも、5日後に迫る手形決済日のことを思えば――
神谷としては、楓の提案を完全に拒絶もできない。彼女の言う通り、他に金を貸してくれる相手も、もはやいないだろうから……。
追いつめられた経営者は、悪魔のささやきにも耳を傾けるものだ。神谷の脳内で、言葉が渦を巻き始めた。
(そういえば6年前、まだ親父が健在だったころ、ふいに『A県ブーム』がきたことがあった。大ヒットした映画の舞台が神谷百貨店のすぐ近くにある公園だったから、観光客が押し寄せて、A県のなにもかもが全国的に注目されて。百貨店の売上は一気に伸びた。この世の春だった。だから僕は、百貨店を継ぐことを決めたんだ)
いま思えば、まったくの幸運だった。
しかし同じことが、あるいはこれから数か月以内に起きる可能性だってゼロではない。
「…………」
「あなたの決断しだいよ、総司」
迷う神谷を後押しするように、楓がくちびるを動かす。
蠱惑的な声音であった。
強い誘惑だった。
それにしてもかつての恋人に、久しぶりに名前を呼ばれた。
変に色っぽく感じたその言葉を、神谷はついに拒絶できなかった。
「分かった。やろう」
そう言うと、楓は緊張が解けたのか、また笑顔を見せてくれた。
「それじゃ神谷百貨店としてはこの話、OKなのね?」
「ああ、大丈夫だ。しかし先方はよく、こんな話を進めようとしたな? いまの神谷百貨店と手形を切り合おうなんて……。融手を切ろうと言うくらいだから、ずいぶん苦しい会社なんだろう?」
「相手は神谷百貨店と違って経営がまずい会社じゃないのよ。新興のIT企業でCという会社なんだけど、A銀行に手形融資枠が2億円も残っているから、銀行への義理として年度内に少し使っておきたいんですって。それに老舗の神谷百貨店に、恩も売っておきたい考えもあるらしいよ」
「恩、ね。……確かに恩義は感じるが。……しかし豪儀な話だ。銀行に気を遣えるほど余裕があるのか、そこは」
「あるところにはあるものよね。もっともあなたにも同じことが言えるけど。昔は大手百貨店の3代目として、ずいぶんいい顔をしてたじゃない」
それは嫌味か?
思わず毒を吐きかけたが、神谷はやめた。
楓には、自分に皮肉を言う資格がある。
「百貨店の3代目なんて、そんなに素晴らしいもんじゃないよ。調子がよかったのは一瞬だけ。例のA県ブームが終わって、親父が死んでからベテラン社員も退職して経営は悪化の一途。その上、百貨店という業態自体が時代遅れになって。神谷百貨店の負債総額は20億を超えているんだ」
「そんなに? ……神谷百貨店といえば、昔はA県の代表みたいなお店だったのにね」
「じいさんと親父が2代がかりで強引に成り上がったからな。おかげで敵も多かった。A県屈指の百貨店でありながら、メインバンクがA銀行じゃなくて、B信金ってあたりでお察しだろう? うちがどれだけ地元経済界に嫌われているか。3代目を継いで、店の経営が危うくなって、嫌というほど思い知らされた」
「…………」
「こんなこと、楓にしか話せない本音だけどな」
当然のように、彼女を下の名前で呼んでいた。
楓も拒絶はしなかった。ただ無言のまま、しかしすっと立ち上がって、
「それじゃこの取引、進めさせてもらうから。明後日にも手形は交換できると思うよ。……総司、電話番号は変わってない?」
「動きが早くて助かる。……番号は変わっていないよ。楓と付き合っていたときのままだ」
神谷も立ち上がった。
「楓。……融手の件が片付いたら、その、……また『カノビアーノ』に食事でもいかないか?」
それは大学時代、ふたりでよく通っていたイタリアンのお店だった。
楓は、目を細めてうなずいた。
「すべてが終わったら、ね」
手形の切り合いは実行された。
場所は神谷が楓と再会した翌々日、A県の海辺にあるホテルの一室にて。
神谷は、楓の紹介するIT企業Cの社長、Dと面会したのだ。
(IT企業の社長のわりには、ちょっと冴えない風貌だな。新進気鋭の経営者らしいが)
しかしCが用意してきた手形は確かに、破格の9999万円!
この手形を割り引けば、来月7日の決済のための5000万円が手に入る。
手形はA銀行が発行したもので、しかもきっちりと2万円分の収入印紙が貼られ、割印も捺されていた。
実にこの金額が心憎い。神谷は昨日、楓を通して、手形の額面はいくらにするかDと打ち合わせをしたのだが、
「9999万円にしましょう」
と提案してきたのはDだったのだ。
額面が1億円を超えた手形には、4万円の印紙を貼らねばならない。だから手形は9999万円にしたのだ。
(2万円とはいえ、節約をするところに彼の本物ぶりがうかがえるじゃないか。昨日、彼の会社のホームページをチェックしたが社訓はIT企業のくせに『質実剛健』。そういう古風さは嫌いじゃないぞ。本物の社長ってのはこうあるべきなんだ。僕もそうありたい……)
「神谷さん。お約束通り、そちらも9999万円の手形を用意してきてくれましたか?」
Dが言った。
神谷はうなずいた。
神谷百貨店の約束手形、9999万円。
振り出し日は本日。満期日(支払日)は6か月後。
経理部から預かってきた手形に、神谷自身が記入したものだ。こちらも無論、印紙は2万円分貼り付けて割印してある。
「確かに。それでは私は用があるので、これで。……三井さん、これからもよろしくお願いしますね」
「はい。こちらこそ、今後とももよろしくお願いします」
Dは楓に見送られてそそくさと、ホテルの部屋を出ていった。
神谷はどっと気が抜けた。ベッドの上に大の字になって倒れこんだ。
ほっとした。とにかく9999万円の手形を手に入れることができたのだ。
あとはこれを銀行に持ち込んで割り引くのだ。
そうすれば、ひとまず当面の危機は回避できる。
たったそれだけのことで――そう、6か月後には9999万円の手形を決済しなければならないのに、それでも神谷の心は羽根がついたように軽くなった。
「Dさん、帰ったよ。次はその手形を割り引くだけね」
「焦ることはないさ。手形決済日まであと3日ある。今日くらいはゆっくりしてもいいだろう」
「そう? まあそれもそっか。総司、疲れてるものね」
「楓、いまから『カノビアーノ』に行かない?」
「いまから? ずいぶんせっかちね」
「それとも、――この部屋で、もう少しゆっくりしてもいいけれど?」
海が見えるホテルの一室。
この場所で、久しぶりに、楓と過ごしたいと思った。
「汗、かいてるから。……シャワー浴びてきていい?」
「もちろん」
シャワールームに入っていく楓を見送りながら――
神谷はおのれの現金さに我ながら少し呆れていた。
つい2日前まで泣きべそをかきながら社長室をうろついていた自分。
それがいまや女性とふたりきりで過ごして浮かれている。
それもかつて、自分から関係を絶った女と。
(金は恐ろしいものだが、手形は現金ですらない。それなのに手に入れただけでこんなにも安堵する。人間の夢と希望はこうもあっさりと復活し、膨らんでいくものなのか。手形一枚で……)
部屋のカーテンを閉めながら、薄暗くなった室内で、神谷はぼんやりとそう思っていた。
「手形が割り引けない!? どういうことだ!」
Dと手形を切り合った翌日。
神谷は、取引していたB信金に手形をみずから持ち込んだ。
しかし信金の職員は手形割引を断ってきたのだ。神谷は顔を蒼くした。
「ですから――このCという会社は事業の実態が確認できないのですよ。いわゆるペーパーカンパニーです。こんな会社の手形は割り引けません」
「そんな馬鹿な! 会社のホームページはちゃんとあったぞ!」
「ホームページくらい、誰でも作れますからね」
「収入印紙が貼られているし、割印だってされている!」
「印紙は納税の証明でしかありませんよ。割印だってどこかで印鑑を作ってきて捺しただけでしょう」
「Cの手形はA銀行が発行しているものだぞ。A銀行の手形帳なんだ。それがペーパーカンパニーだなんて」
「そう言われても、企業Cに経営の実態が確認できないのは事実なんですよ。……神谷社長、Cのホームページに書かれてある住所に行ったことはおありですか?」
「…………」
あるわけがない。
Cは、3日前に初めて存在を知った会社だ。
老舗を継いだ自分が、名前も知らないなんて、そんな会社が県内にあるのかとチラッと思ったが――
しかし新興のIT企業ということで、そういうこともあるかもしれないと判断した。それが、まさか。
「ホームページに書かれてある住所は、誰も住んでいないボロアパートの一室でした。手形に書かれてある住所も同様です」
(楓、これはどういうことだ!)
神谷はその場で、楓の携帯に何度も電話をかけた。しかし電話には誰も出なかった。
「神谷社長。たいへん申し上げにくいのですが、もしかして社長は、その三井という女性に騙されたのではないですか?」
「楓がそんなことをするもんか!」
神谷は急いで、楓の勤めるA銀行に問い合わせた。
すると意外なことが分かった。楓は3か月前に退職していたのだ。そしてA銀行は、3か月前に、手形帳をひとつ紛失していた。その事実から考えると、ひとつの絵ができてくる。
すなわち――
楓は、A銀行から手形帳を盗み、わざわざ印紙を購入し、印鑑を作り、架空の企業の約束手形を作り上げたのだ。神谷を信用させるためにIT企業Cのホームページまでこしらえて。
さらに調べを進めると、企業Cの社長を名乗った男Dは、楓から雇われた売れない役者ということまで分かった。なにもかも、楓が仕組んだお芝居だったのだ!
その楓はもう、家にもいなかった。
役者Dから神谷百貨店の手形を受け取って、どこかに消えてしまったのだ。――すべてが分かったとき、神谷は世界が崩れ落ちたかのような感覚を覚えた。
(楓、どうしてこんなことをしたんだ! 楓……! 楓っ……!!)
神谷は、がっくりとうなだれた。
Dに渡し、そこから楓の手に渡った神谷百貨店の手形の行方も気になる。楓はあの手形をどうするつもりなのか?
「社長、大丈夫です。悪意によって取得された手形は、支払いを拒むことができます」
信金の職員は、神谷をそう言って励ました。
楓が取得した手形については、そうだろう。
神谷はどこまでも被害者なのだ。
しかし――
(2日後に迫る5000万円の手形決済はどうにもならん! 手形を割り引くことで得た金で、支払おうと思っていたんだぞ。僕が泣こうがわめこうが、楓の悪意とはまた別の問題として、神谷百貨店の運命は定まったんだ!)
『1号不渡り』は決定的だった。
しかも絶望はそれだけではない。
(僕の人生も終わった。老舗百貨店を潰したダメな3代目。いや、それ以上だ。融通手形を切り合おうとして、その上、過去の女が仕掛けた芝居に引っかかり手形を渡したボンクラ。単に百貨店を潰しただけなら時代や不景気のせいにもできるが、元カノに騙されて潰したとあっては、これほどみっともないことがあるか! ゴミのようなレッテルと、今後一生付き合っていくことになる! 楓、どうしてこんなことをした! どうして、こんなことを!!)
しかしすべては、もう手遅れだった。
「金がない! 神谷百貨店はつぶれる!」
日本から遠く離れた南国にて。
楓は、透き通った海に水着の全身を委ねていた。
その右手には、水に濡れてぐしゃぐしゃになった、神谷百貨店の手形が握られている。
(総司はいまごろ『どうしてこんなことをした』なんて考えているよね。……ふん、ずっと昔から、復讐する機会を狙っていたんだから。どうしてもこうしてもないじゃない。――総司、わたしをあれだけ酷い捨て方をしておいて、助けてもらえると思ったの?
……思ったんだよね? だからあなたは、わたしをイタリアンに誘えるし、あの日、ホテルで過ごしたのよね。馬鹿な男。チャンスは与えてあげたのに。あなたはあのDと手形を交換した日、そのままB信金に直行していれば。あるいはわたしを連れて信金に向かっていれば、こんなことにはならなかったのに、あの日、ホテルでわたしと過ごしたばっかりにこのザマよ。これだからボンボンは。なにが3代目は辛い、よ。世間のみんなはもっと苦しいんだからね……。
総司。
あなたはもうすべてがおしまいよ。
男として社長として人として、生き恥をさらしなさい。
Dは警察に逮捕された。
わたしもいつか、警察に捕まる。
だけどそれでもいいの。
刺し違えてでも、あなたにこの上ない恥をかかせてやりたかったんだもの。いざというときに融通手形を切る経営者、手形を昔の女に騙し取られる大馬鹿者という評判と共にこれからの人生を過ごしなさい。殺される以上の絶望的な恥辱と、人間不信を抱きかかえて、これからの人生を送っていきなさい。わたしがそうであるように……)
完
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