2人が本棚に入れています
本棚に追加
私は休憩時間のたびに教室を抜け出し同じ場所に来る。
一人になれる階段の上――友人といつも秘密の話をした場所――誰もいないのを確認してから、私はいつも2人だった場所に1人で座る。何度目かの本当の1人だけの時間を肌で感じながら冷たい壁にもたれかかって、気を抜いたらすぐ頬に流れ落ちるものにそっと触れた。
『真美は好きな人、いる?』
そう聞かれた時、私は『いないよー』と笑った。それに対して加奈は『私はいるんだ、ほらクラスメイトにいる、榊君――』
加奈は、いつも榊の話ばかりしていた。
顔がいい、頭がいい、スポーツはちょっぴり苦手みたいだけど音楽の趣味が良くて、優しくて……
『凄く、好きなんだぁ』
そう言って笑って、すっごく嬉しそうな顔をする加奈の笑顔が、目を閉じたらすぐ思い出せる。
その話を聞くたびに、『いいね』て笑いながら、ずっと苦しかった自分の心も――
「大丈夫?」
ふと声をかけられて私はハッと目を開いた。
今更止めることなどできない涙は流したまま、拭う気力も湧かない状態のまま、顔を上げた私の視界に入ったのは
榊、だった。
驚いたように目を丸くしている榊に、私の全身がカッと熱を帯びる。
何で追って来たんだろう。
でも、そんなことどうでもいいや。
「……何?」
ぶっきらぼう、だけど、泣きすぎて掠れた声を私は彼に投げかける。
二人きりだから、今なら別にとりつくろわなくてもいいや、と思っている私がいた。
彼は私の止まらない涙に驚いた様子だったが、でも、その顔はすぐにキリッと引き締まった。
――あ、カッコいいな
と、無意識に私が思った瞬間。
その顔は、目の前にきた。
「え」
最初のコメントを投稿しよう!