君はいない

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 本当に吃驚した。  階段を勢いよく駆け上がったかと思うと、彼は驚く私の肩をいきなり掴んだのだから。  でも、何より吃驚したのは、その顔が。    見たこともないくらい耳まで、真っ赤だったこと。 「お、俺は、お前の笑ってる顔が見たい!」  噛みながら、言ったその言葉。  私は驚きすぎて、でもなんかその姿が滑稽で。 「なにそれ……っ」  思わず、吹き出した。  そしたら、榊は笑って。 「よっしゃ!」  て、嬉しそうだったんだ。  凄くくすぐったくて。  でもなんか嬉しくて。  悲しかった変な気持ちが全部全部吹っ飛んだ。  なんだろう  何か、その馬鹿げたような台詞で。  私の中が満たされたんだ。  ――でも  
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