君はいない

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      「私、最低だよ?」  私の言葉に榊は「何が?」と首を傾げる。  その様子が可愛いな、と思うあたり私は重傷だな、と思いながらずっと蓋をしていた思いの箱を解放した。   「加奈、いたじゃん」 「うん、仲良かったよな、お前ら」 「うん。でね、加奈、好きな人いたの」 「そか」 「でね、私、ずっと加奈からその人の話聞いてたの。なんか毎日聞いてたらさ、どんな人だろうって私も目を追っちゃってさ」 「……うん」 「私も好きになっちゃったの」 「……」 「だからさ、私、加奈がいなくなった時さ。悲しくて泣いてる癖にさ」  私は顔を上げた。一度は止まっていたはずの涙がとめどなく流れる。 「よかった、て、思っちゃったんだよ?」  ほら、最低でしょ?    そう言って私は目の前の榊の襟を強引に掴む。この場には2人しかいないからか、泣き顔を見せてしまっているからか、私の行動は大胆になる。 「だからせめてこれ以上好きにならないように、気持ち捨てるために離れたのにさぁ!」  叫ぶように声を荒げながら、引き寄せて。私は榊の胸元に顔を埋めた。   「何で……っ、離れてくんないのよばかぁ!」  しゃくり上げながら告げた私の言葉に、榊は気が抜けたように「あ、なる……そういうこと……」と何処か安堵したような呟きを零していた。とても呑気なトーンに私は、こいつは私の気も知らないで、とむかついたが今は気持ちが高ぶりすぎて私の口からはえづくような泣き声しか出ない。   「……別に、最低じゃなくね?」  不意に、榊が零した。  私は弾けるように顔を上げた。すると、ドアップの榊の顔があったので思わず「わ」と押してしまい榊が階段から落ちそうになって――私は慌てて榊を引き戻し、その勢いのまま私は後ろに倒れ榊に床ドンされる形となった。階段の上でなんてことしてんだ、という呆れた感情と、男子の腕の中で顔を見上げるなんて初めての状況に混乱し、私の心臓が爆発しそうな音を立てていた。
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