君はいない

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「……だってさ、そんなもんちゃう? 人間って」 「何、が」  そのまま話を続ける榊に戸惑いながらも私は言葉を返す。一生止まらないのではないだろうかと思えた涙は、今は戸惑いで引っ込んでいた。かわりに、身体が熱い。 「死んだ人間は過去だ。どうやっても取り戻せない。だから俺は過去は過去と切り捨てる。でも、生きてる人間は今、いる。俺は今いる人間は切り捨てない。むしろ大事にしたい。……そう思うのが普通だし、当たり前じゃねぇか? だから、今いる自分の気持ちを優先すんのが当たり前だ」 「でも、気持ちなんてそんな……かん、たん、に……っっっ」  反論しようとして見上げたら真剣で真っ直ぐな目と出会い、私は耐えきれず目を逸らし手の甲で視界を遮断する。言おうとした言葉も飛んでしまい、どうすることも出来なくなって混乱の交ざった熱い気持ちが渦巻きパニック状態だった。 「お前は出来なくても俺はそうだね。もし親友が死んで、同じ奴を好きだったら……うん、俺はこれで心置きなく好きになっていいなって思う。むしろ」  手を掴まれ、横に避けられた。視界が、榊でいっぱいになり、逸らしたくても逸らせなくなる。  ――こんな真剣なコイツを見たことがない 「死んだアイツの分まで好きになって俺が大事にしてやる、て思うね」  そう告げると、私の身体が勢いよく持ち上がった。榊が私を起こしてくれたらしい。そのまま榊は一段下の階段に膝をつくと私の手を掬い上げるように持ち、私を見上げた。   「……で? 俺は、告白されたってことでいいかな?」 「へ?」   言われて、今までの会話を反芻して。  ほぼ告白したようなものと気づき私の全身が燃えあがるような熱を帯びた。 「あ、う、え」 「違う? ……じゃあ、俺、嫌われてんのか」  急にしょんぼりと視線を落とす榊に「違う、好きだから……っ」と咄嗟に言うが、途端ににやりと口角を上げやがったので私は「あ」と口を急いで覆う。   「じゃあ、決まりだな」  榊はとんでもなく腹の立つ笑みを広げると、私の手を両手でぎゅっと握った。   「これから、よろしくな」  寂しさなんて、吹っ飛ばしてやるから  そう言葉を続けて、優しい笑みを彼は浮かべた。    
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