2・就活の結果

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2・就活の結果

 俺たちは前と同じカウンター席に座った。以前と違うのは距離が縮まったこと。俺の隣の席をひとつ空けた所に、贄が座った。  ダルマ型のビンコーヒーのフタを開けた。ビンの炭酸飲料は自動販売機で買えるけど、コーヒーは珍しいよな。ま、缶コーヒーよりも容量が多くて、飲みごたえがあっていいけどさ。  ルールは1本のふ菓子の完食と、ビンコーヒーを1本飲み切ること。本当はふ菓子だけでもよかった。だが、のどに詰まる危険性を考え、贄は俺に飲み物を選ばせたとのこと。確かにそうだ。早食い勝負をして死んだなんて、シャレにならんもんな。  ふ菓子の包装も破り、いつでも勝負できる体勢を整える。贄のほうも準備が完了したようだ。 「よし、やるぞ」 「こっちはいつでもOKだよ♪」 「じゃあ……」  一拍の間があって、 「いただきます!」  俺たちの声が重なる。ふ菓子を手に取り、思いっきりかじりついた。サクッとした食感。砂糖と水あめの甘味が口いっぱいに広がる。なんつう甘さだ。よくガキのころに食っていたもんだわ。しかもそれなりに水分を持ってかれる。  早速、コーヒーに手が伸びた。……お、甘さと苦さがいい感じじゃん! これはうまいわー。我ながら良い選択をしたな。……ってことは贄のほうも?  横目で盗み見る。ふ菓子はすでに半分近く消えていて、大半は口の中で咀嚼し続けているらしかった。コーヒーを手に飲もうかどうか迷っているのか、一点を見つめたまま動かない。  贄もまたこちらを見てきた。俺がほんの少しだけリードしていたのを見て焦ったのか、目をつぶってコーヒーを流し込んだ。 「にっがぁあぁぁぁい……!」  完全に動きが止まり、舌を出して涙目だ。本当に苦手なんだな。悪いことをした。けどな、勝負は勝負だ。他にも選択肢があって断ることもできたのに、それを受け容れた贄も悪い。戦いの中で苦手を克服するなんて、舐めた考えは持たないほうがいいんだ。  スパートをかける。噛むスピードを上げつつ、適度にコーヒーの水分でのど通りをよくして胃に落とし込む。あとひと口ふた口で完食できそうだ 「負けたくない!」  猛烈な勢いで贄が迫り来る。半分近くあったふ菓子を大きな口で頬張って何度か噛み潰し、苦手なコーヒーでふやかし飲み下していく。なんだこいつ? 飲み込む力が蛇並みなのか!?  俺も急いで残りを口の中に放った。高速で細かく噛み砕き、残りのコーヒー含んで一気にまとめて飲み込んだ。  先に口を開いて、相手に空になった口内を見せたほうが勝ちのルールだ。  口を開いて贄のほうを向いた。その数秒後に贄も口を開いて俺に見せてきた。 「マジかよ、間一髪なのかよ……」 「いやー、やっぱり苦手なものはダメだねぇ。でも、味方くんも早くてすごかったよ♪」  俺は辛勝に打ちひしがれ、贄は負けを認めつつ笑っている。どっちか勝者だかわからねぇな。 「いやいや、贄のほうがすげえって。むしろ人間やめてるクラスの食べ方だったわ」 「それ、褒めてないよー」  贄は頬を膨らませてみるが、目が笑っているから満更でもないのかな。 「で、結果はどうだったんだ?」 「結果はねー、受かったよ! 4月から晴れてテレビ新後の社員だよ!!」 「おお! すげーじゃん! おめでとう!!」  なぜかお互いガッツリ握手し合い、喜びを分かち合っている。なんだこれ、お堅い職業の祝い方か。 「大変だっただろ?」 「まあ、半分コネのおかげだけどね」 「え?」  贄の話によると、親戚にテレビ局の社員がいてとのことだ。それで、公には発表になっていないが、近々寿退社をする女性のアナウンサーがいる情報を掴んだらしい。そこで、贄に話を持ちかけてきたとのことだ 「形式上試験はやらないとマズいんだって。何度も面接やったり、小論文書いたり……もうめちゃくちゃ疲れたよー」  贄はイスに腰かけ、死闘を制したボクサーのような格好になる 「あと、こんなにやらなきゃいけないことがあるんだよ……」  贄がテーブルに数冊の本を置いた。ビジネスマナーの本や一般常識の本、時事関連の本。うーん、めまいがしてくる。 「幼稚園とか学校とか老人ホームで読み聞かせに行かないと。これはテレビ局の人が同行してくれるらしいけどね」 「読み聞かせってのは、人前で話すことに慣れるためか?」 「そうそう。その通り」 「アナウンサーってハードな仕事なんだな……頭も使うし」 「でもねでもね。食べ物の取材も結構あるって言ってたから、それがもう楽しみで仕方ないよ!」  よだれを垂らさんばかりの顔で言うあたり、取材と言う名のタダメシを食べまくりたいようにしか思えない。 「ほどほどにしとけよ。これ以上太ったら、視聴者から何を言われるかわからんぞ」 「大丈夫だって、運動もするから!」 「んじゃ、土曜日の昼過ぎに新後体育館に集合な」 「……そ、その日は老人ホームの読み聞かせがー……」  滑舌のいい早口プラス目が泳ぎまくっている。すなわち嘘だ。  俺はため息をつきながら、贄の頭を軽くチョップした。
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