1・ふ菓子対決!

1/1
前へ
/2ページ
次へ

1・ふ菓子対決!

 初めて贄(にえ)と早食い対決をしてから3週間ほどだっただろうか。  あれ以来、ちょこちょこスーパーに来ているが、まったく会わなかった。  自転車置き場にチャリを置きつつ、カバンを掴んだ。すると、隣に勢いよく誰かが滑り込んできた。 「あっじかったくっん!!」 「おお、贄じゃん。久しぶりだな」  贄の笑顔に、自然とこっちも表情が緩むのがわかった。相変わらず、人好きのするかわいい奴だなと思う。 「私もね、いろいろと忙しかったんだよ」 「へえ、そいつはご苦労さんでした」  微妙なニュアンスの言い方だな。あえて今はワケを聞かないでおくか。いっしょにスーパーに入って、それぞれカゴを手に取る。 「うん。やっとひと段落したから、顔を出してみたんだ。そしたら、味方(あじかた)くんがいてさ、嬉しくて思わずお腹が鳴っちゃった☆」 「おいおい、俺は食いモンじゃねーぞ」 「わかってるって♪ もー冗談だよっ」  バシバシ背中を叩いてくる。さすがいいガタイをしているだけあって、結構内臓に響く力具合だ。背中がもみじになっているんじゃねぇか。 「ひと段落って何かしてたのか? そういや、声を使う仕事とか言ってたから、就活とか」  機嫌良くお菓子コーナーであれもこれもカゴにぶち込んでいた贄の手が止まる。 「しゅ、シューカツ? パイシューに包まれたカツなんてあるの?」  動揺がモロに出ている。嘘がヘタクソな奴だな。 「知らんわ。結果はもう出たんか?」 「それはね……」  贄は両手を腰に当てて胸を反らす。 「私に勝てたら教えてあげる!」 「わかったわかった。ついでに俺の雪辱戦(リベンジ)にしようじゃないか」 「おー、いいねいいね。そうしよ! それでね、今回はあれにしようよ!」  贄の指差す先にはふ菓子があった。だいぶ懐かしいシロモノだ。 「ふ菓子。材料はみそ汁の具でも使う麩(ふ)。棒状の麩に、砂糖や水あめで黒く沁みこませて作られる。老若男女に人気のある駄菓子のひとつ。人によっては『駄菓子の顔』と呼ぶ人も」  ハキハキとアナウンサーのような口調。……本人の前じゃ照れ臭くて言えないけど、めっちゃいい声しとるよなー。惚れ惚れするもん。表情もふんにゃりしていたもんから引き締まっているし。ギャップがあって非常に良いわ。 「ふ菓子なんてガキのころに食べたっきりだな」  そもそも駄菓子自体、いつの間にか食べなくなった。値段の割に全体的に量が少ないもんなぁ。小さい子どもならまだしも、食べ盛りの人間にとっては物足りなさ過ぎるんだ。そりゃ見向きもしなくなって、ジャンボサイズのポテチとか食べるわ。 「そうなの? 私は結構な頻度で食べるよ。そのまま食べても良し。カットしてバターで軽く焼いて、アイスを乗っけて食べるのも良し!」  何気なく視線が贄の腹を捉えた。ストレスで食べまくったのか、少し太ったような気もしなくもない。顔には肉がつかないのは、ある意味良い体質を遺伝したんだろうな。  ……で、このふ菓子である。果たして1本50センチで150円ってのは、安いんだか高いんだかわからん。とりあえず、買い物かごに入れとこう。 「飲み物は選ばせてあげる」 「んじゃ、アイスコーヒーにするか。無糖の」 「……いいよ!」 「なかなかの間があったけど、コーヒーは苦手か?」 「嫌いじゃないよっ。たしなむ程度だよ! ブラックは、その気になればいくらでも――」  取り繕うかのような早口。嘘をついているとこうなるのか? さっき動揺していたときもそうだったよな。 「苦手なんじゃねぇか。フェアじゃないからやめっか」 「このふ菓子はめっちゃくっちゃ甘いから大丈夫!」 「本当か?」 「味方くん! 何事もチャレンジだよ!!」  * * *
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加