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ーーいつもコレだなぁ。
フッと口角を上げて笑い、私は有り難くその一つを頂戴する事にした。
シュー皮にかぶりつこうとした所で、私はおもむろに口を閉じ、指先で頬を触った。不意に過去を思い出していた。
あれは高一の春だった。
目はテレビに釘付けで、完全に油断していた。パクッとかぶりついたシュークリームから勢いよく飛び出したカスタードが左の頬を汚し、ついでに私の膝にもポトリと落ちた。
ああ、もう、と顔をしかめた途端、隣りに座っていた兄貴がグイッと親指の腹で私の頬を拭った。
「信じらんねぇ、ガキかよ」
そう言って自分の指を舐めて、心底可笑しそうに私を見て笑った。あの笑顔が未だに記憶に張り付いて離れない。
その年の夏、兄貴への気持ちを抑えきれず、思い切って告白をした。
あの時の表情も忘れられない。
兄貴は不服そうに口元を歪め、辛辣な瞳をスッと細めた。
「お前シュミわりーな」
そう言ってどこかやるせ無い表情で溜め息をついていた。
結果的には振られた。
きっと私が妹だから。
でも血の繋がらない私たちはたった紙切れ一枚で兄妹と決め付けられた関係なんだよ?
元は赤の他人なんだから、私が兄貴を好きになっても不思議じゃないでしょ? これは許される恋でしょ?
欲しいのはシュークリームじゃなくて兄貴の……サクの心。どんなに手を伸ばしても届きそうにない。
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