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しゃがんだままで子猫を受け取ると、小さなそれはミャーミャーとか細い声で鳴き、ジタバタと手脚を動かした。私の長袖シャツに爪が引っ掛かる。
「どうするの、サク。この子飼うの?」
言いながら子猫をまたサクの腕に戻した。私よりサクの方が断然抱っこに慣れていたからだ。
「うちで飼うのは無理、かな。お父さんが猫アレルギーだから……」
「そっか」
たとえ義父がそうでは無くても、母は嫌がるだろうなと思った。
家には連れて帰れない。私とサクの二人で内緒で飼おうにも、このままではいずれ弱ってしまうかもしれない。サクがそう判断して、私たちは段ボールごと近所の散髪屋さんまで子猫を運んだ。
散髪屋のおばちゃんは野良猫の世話に慣れているからか、快く子猫を引き取ってくれた。
「まだ小さいからね、この子には守る存在が必要だよ。サクちゃん、ミクちゃん、見捨てずに連れて来てくれてありがとうね。また猫ちゃん見に来てやってね?」
『うん!』
その日の帰り。生き物に愛情を注ぐ瞳と同じ色で、サクが私に言った。
「美紅の事は。兄ちゃんのおれが守ってやるからな」
「うんっ」
この時から私を守ってくれる存在はサクしかいないと信じ込むようになった。
絶対の信頼を寄せるサクへの想いが、恋心に変わるのに、そう時間はかからなかった。
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