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昼食の後、車に乗って別宅に移動した。
ラウールとオリヴィエの希望で、別宅でもデカルトの授業を依頼している。そのため、二人の身の回りのものと、勉強道具なども一緒に運ばれた。
別宅には三人以外に料理と家事のための女性使用人が二人が常駐することになった。こちらも本屋敷の使用人の中からイレーヌが人選した人間だ。この人選も、あくまでもラウールとオリヴィエが落ち着いて療養にあたることができるように配慮されていた。
そして窓、とりわけ二階のサンルームにある大窓からは、放牧され草を食む祖父の馬がよく見えた。馬が好きなオリヴィエは、この眺めに顔を輝かせた。
彼が自分の傍にいてくれることはとても嬉しい。しかしラウールも、そんな彼に対して少しでもできることをしたいと思ったのだ。そのために選んだのがこの別宅だった。この別宅からならば、いつでも馬を見ることができる。
それだけではない。
「もう少し僕の体調が落ち着いたら、リーヴィ、君の馬を選びに行こう」
喜びに満ちた表情で馬を見るオリヴィエにそう話しかけると、彼は驚いた様子で振り返ってきた。
その様子にラウールは胸中で首を傾げた。
ラウールの記憶では一昨昨日の就寝前、翌日に祖父の牧場にオリヴィエの馬を見に行こうと約束をしていたはずなのだ。だが事案が発生し、その約束は果たされていない。
馬好きの彼だ。きっとその約束を楽しみにしていたに違いないと思ったのだが。
事案についての詳細は、結局ラウールには知らされていない。おそらく知らせるべきではないと両親が決めたのだろう。
その決断についてラウールはとやかく言う気はなかった。概要についてはオリヴィエから話されていたし、自分にとってもそれで十分だと考えたのだ。
だから、自分ではその日のことはもう、あえて考えないでおこうと決めた。
だが今のオリヴィエの反応に、この事案に対して彼がどう思っているのか、それに対しての配慮を自分がしていないのではないかと気づかされた。
今自分は、最大限以上にオリヴィエに甘え依存している。たとえオリヴィエがそうしてくれと望んだのであっても、そのことがまったく彼の負担になっていないわけではない。
自分に尽くすと言ってくれた彼の気持ちに少しでも報いることができればと、療養の場所にこの別宅を選んだのだが。
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