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王都の四月下旬の気候は穏やかで気持ちがいい。
けれど、今朝の登校時の足取りの軽さは、そんな気候だけが理由ではない。
油断をしたら鼻歌でも歌ってしまいそうだ。
だがオリヴィエは由緒あるルクウンジュ貴族の息子だった。公の場では決して自分の感情をそのまま態度に出しはしない。
それでも内心は上機嫌のまま教室に入る。
サン・ポワティエ学院中等部の校舎、二年の教室が並ぶ階。朝の清々しい光が差し込む教室の教壇の横で、彼はすでに登校している他の同級生たちと話をしていた。
自分とは異なり、周囲からの信望が厚い彼が友人たちから話しかけられているのはいつものことだ。
その横を通り、何気なく挨拶をする。
「おはよう、ラウール」
オリヴィエからの挨拶にラウールは顔をこちらに向け、菫色の瞳を細めてにこりと微笑んだ。
「おはよう、オリヴィエ」
昨日までも単調に繰り返されていたやりとり。
けれど、今日からは違う。
そう思うのは決して気のせいではない。
窓側にある自分の席。机上に荷物を置いて、椅子に座る。そして頬杖をついてラウールのいる集団に目をやった。
普段通りの涼やかな表情で友人たちと会話をしている、彼の癖のない白金の髪がかかるうなじ。そのすぐ下。
隙なく着込まれた制服の下の素肌、シャツの襟の際に隠されているもの。
鼻の奥に残る香り。
彼の秘密を知るのはオリヴィエだけだ。
──あ、やば……
それらを思い浮かべ、ぞくりと勃ちそうになった。
始業前の教室にはそぐわない興奮に歪みそうになった口許を押さえ、彼から視線を外す。
目を移した先の窓の外は、春の終わりの校庭。
けれど脳裏に浮かぶのは、昨日のラウールの姿だった。
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