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蠱惑の時間への期待と、学院の他の生徒への警戒心と。
そんな背反する思いを抱え、地に足がつかない心地のままラウールと共に下校した。
学院から屋敷最寄りの駅までの地下鉄の中でも、どんな会話をしたのか、はっきりとはしない。
屋敷に着き、客人がいるから自室まで茶を運ぶように依頼をする。
「僕が呼ぶまで、誰も来ないように伝えておいてくれ」
部屋に茶を運んできた使用人にそう言って出て行かせ、部屋の鍵を閉めたところで、一息をつくことができた。
これでやっとラウールと二人きりだ。
使用人が下がるまでの間、窓から屋敷の庭園を見下ろしていたラウールが、ティーセットの用意されたテーブルに歩いてきながら笑った。
「さすが、こういう時の使用人のあしらいにも慣れている」
「まさか」
テーブルの席に着きながら、憮然と答えてしまう。
「部屋に人を招き入れるなんて初めてだよ」
「それは意外だ。僕はてっきり……」
「どうでもいい相手を自分の領域に入れたりしない」
言葉を遮ったオリヴィエをラウールが無言で見つめてくる。そのまま彼は、開いた口を閉じて視線を落とし、テーブルの上のティーカップに指をかけた。
その様子に自分の態度を反省する。
つい口調がきつくなってしまった。
──……余裕がないの、気取られたかな?
ラウールに言った通り、今まで他人を部屋に招待したことなどはない。
家の使用人を相手にする時は、屋敷の適当な空き部屋を使っていたし、学院内でも似たようなものだ。
自分の性欲を発散するだけの相手にベッドを、ましてや自分のベッドなど使おうとも思わなかった。
──さて、どうしよう……
相手を自分の部屋に入れる。そのことからして初めての状況だ。
更に、昨日までの相手は遊び慣れている者たちばかりだったが、ラウールは違う。経験のない人間を相手にすることも、オリヴィエにとって初めてのことだった。
これは思案のしどころだ。
黙って考え込んだまま、オリヴィエもラウールに倣ってカップを口に運んだ。
「で、僕はこれから何をしたらいい?」
それを見計らっていたかのように、ラウールから質問が発せられた。
目を上げると、カップを下ろし面白そうに微笑むラウールの顔があった。
──気まぐれな猫に翻弄されているのかもしれない。
そんなことを思う。
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