第二話 正暦一七九六年四月(芽月) 春の日に君と秘密を(改稿版)

13/14
前へ
/484ページ
次へ
「あ……ん、あああ……あんっあんっあんっんっ……!」  魅惑的な嬌声を上げ、きゅうう……とラウールの肉がオリヴィエを締め上げてくる。  薔薇の香り。そしてもう一つ、異なる香りがどこからか生まれ混じり合い、音楽室でのキスの時に感じた極上の匂いがオリヴィエたちを取り囲んだ。  熟れきったラウールが、熱に濡れた菫の瞳を向けてきた。 「……君を、ちょうだい」  荒く息をつき、腰を揺らしながら懇願してくる。  オリヴィエも最初からそのつもりしかなかった。だから避妊具もなしに、そのまま彼の中に己を入れた。  ──何もかも初めてだったのは僕も同じ。  真っ赤に染まったラウールの耳朶を噛み、掠れる声で囁く。 「中に出すよ」  黙って頷いたラウールがオリヴィエにしがみつく。  今まで一番奥へ自分を突き入れる。どくんと脈打ち、オリヴィエはラウールの中に射精した。 「あんっ……!」  高い声を上げ、びくんと背を仰け反らせたラウールの内壁が、オリヴィエの精液を余さず飲み込もうと締め上げてくる。  しかしすぐに力を失って、ラウールはベッドに沈み込んだ。  同じく力尽きたオリヴィエも、彼の上に覆い被さった。  この満足感を表すのに、言葉などいらなかった。  体勢を変え二人でベッドに並ぶと、オリヴィエはラウールを抱き寄せた。おとなしく胸の中に収まった彼のなめらかな背中をゆっくりと撫でる。  絶頂の際に感じた極上の香りの残り香が周囲を揺蕩っている。その香りは、あの時興奮をかき立てたのとは異なり、今は穏やかな落ち着きを誘っていた。  こうやって、抱き合った相手と余韻を過ごす。  これはオリヴィエにとって新鮮な経験だった。  ふと、何かに気づいたらしいラウールが悪戯っぽく笑った。菫色の瞳が煌めく。 「どうしたんだい?」  尋ねたオリヴィエに、ラウールは肩をすくめた。 「これじゃあ、君に悪いと思ったんだ」  何が? と訊く前に、ラウールはオリヴィエに顔を近づけてきた。  彼の唇がオリヴィエの左の鎖骨に当てられる。  唇を離した後、ラウールは満足そうに笑っていた。  最初の約束通り、その後ラウールはピアノの練習をしていった。彼を家の車でメールソーの屋敷まで送り届け、再度リオンヌの屋敷へ帰宅した後。  オリヴィエは自室の鏡で確認をしてみた。  ラウールがキスをした場所。そこには、オリヴィエがラウールにつけたものと同じような痕が残されていた。
/484ページ

最初のコメントを投稿しよう!

122人が本棚に入れています
本棚に追加