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 この小さな椿事のおかげだろう。ラウールの中にあった、先ほどまでの鬱屈した気持ちは吹き飛んでいた。オリヴィエが差し出してくれた手を素直に取る。そして立ち上がると、胸の中から笑いがこみ上げてきた。  あはははとラウールが声を出して笑い出すと、オリヴィエもつられたように笑い出した。  二人でひとしきり笑い合う。  気が済むまで笑い、そして目尻の涙を拭いながら、シーグフリードの行方を目で追った。彼は放牧地の出入り口の方へ向かっていた。 「行こう」  今度はラウールからオリヴィエの手を握った。  再び並んで歩き出す。 「リーヴィ。僕は君にとても感謝をしている」  気持ちが改まったからだろう。ラウールは今の思いを素直に口に出すことができた。 「一昨日、何があったのか僕には解らない。そのため、君に対して配慮のないことを言っているのかもしれない。それでも……君も気づいてくれたとおり、僕も君のことを思っている。君が僕にしてくれるように、僕も君に対して何かをしたいと思うのは当然のことだろう?」  牧柵の中では、シーグフリードと一緒に丘を下りてきた数頭の馬が、ラウールたちの歩調に合わせてついてきていた。  ここまで馬に寄ってこられるのは初めてだ。先ほどのシーグフリードの悪戯といい、驚きはある。だが、ラウールは特に顔に出しはしなかった。ラウールよりも馬に慣れ親しんでいるオリヴィエが、平静の様子だったからでもある。  オリヴィエはラウールの言葉に、ばつが悪そうに頭を掻いた。 「うん。本当にごめん」 「今の僕が君に心配をかけさせているのも理由なんだろうけれど」 「それは決して君のせいじゃないから、言わないでほしい。僕の方が、視野が狭まってしまっていたんだ。君が僕のためを思って選んでくれたこと、とても嬉しいよ。早く君と一緒に馬を選びにいけるようにならないとね」 「うん。……君もそう思ってくれているのなら、いい」  オリヴィエからの返事に、胸の中が温かくなるのを知る。  自分の横にはやはり、こうやってオリヴィエにいてもらいたい。
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