第三話 正暦一八〇一年一月(光月) 冬の季節の、君の贈り物

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 ラウールと共に過ごす時間は心地がよく、己を高めるためのいい刺激になる。また、飽かず身体の関係を続けていることが証明するように、互いの相性も大変にいい。  けれど彼とは友人でしかいられない。  そのこともオリヴィエは重々承知していた。  それこそイレーヌが長年嘆き続けていることでもあった。  ルクウンジュでの婚姻は、異性同士だけでなく同性同士でも認められている。  貴族の当主という立場の人間の場合は、世継のことを考慮して異性婚の比率が高かったが、たとえ男女で結婚しても確実に子を成せる訳ではないし、養子を取るという方法もあるので、同性婚が選ばれる場合もあった。  だが。 「メールソーは家憲で、嗣子は必ずメールソーの当主、元当主の二親等以内の卑属であることと決められているんだ」  将来的にラウールを補佐出来るよう、オリヴィエがメールソー家の家憲について学んでいる時に彼からそう教えられた。  アントワーヌの弟妹達三人は、弟二人はいまだ独身で王都に暮らし、妹は女性と結婚して伴侶と共にカストルでホテルとレストランを経営している。従って彼らには子供がいない。  もし、ラウールが自身の後継として養子を求めるのであれば、自分の弟達、もしくはまだ生まれてもいない彼らの子供達の中から候補を選ばなければいけなかった。  これについてもラウールと話をしたことがある。  季節は夏の終わり頃、自分達の間ではテレーズが藤製の揺りかごの中に眠り、開け放した窓からはクロウタドリのさえずりが聞こえてきていた。 「弟達の未来を縛りたくない」  彼はそう言って、桃色でつやつやとしたテレーズの頬をふに、と指で押さえた。テレーズはよく眠る赤ん坊で、兄に頬をつつかれても起きる様子はなかった。 「メールソーの子としてこの世に生を受けたことは、とても幸運なことだろう? 彼らにはその幸運を最大限に生かし、自分達の望む道を力強く歩いて欲しいんだ。そのためにも僕はこの家をしっかりと守り続けたい」 「もし、君の弟達のうちの誰かが君の養子となることを望んだ時には?」  オリヴィエの質問にラウールは笑った。 「その時には申し出をありがたく受けるよ。けれどまあ、まずそれは期待出来ないだろうけれどね」  ラウールの意見ももっともだった。彼の叔父叔母を見ても解る。メールソーは己の意思を最優先にする気性の人間が多いようだし、現在のところオリヴィエから見てもテレーズ以外のラウールの弟達はメールソーを継ぐことに何の興味も持っていない。  テレーズもきっと、自分の道を見いだして突き進んでいくのだろう。  そして彼の叔父叔母や弟達同様に、ラウールも己が決めた道を決して曲げはしない。  どれだけ身体を重ねても、男同士の自分達の間では子を成すことなど決して出来ない。それでは彼の望みはかなわない。  オリヴィエの最大の望みは、自分の道を見据えまっすぐに歩いて行くラウールを支え、彼が求める彼の最善のために尽くすことだった。  だからこそ。  自分達は決して「恋人」にはならない。  あくまでも友人として彼の横に立つ。  それをオリヴィエは心に固く誓っていた。
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