「少し考えてみるか」

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「少し考えてみるか」

 このタイミング、この場所で、つまり僕に消される前に、この「ソレカラ」を見ることができるのは、この学校では僕だけだ。それに「ソレカラ」は、常に作品を用いて「思い」を描いていた元部長の、この学校での「最後のメッセージ」ということにもなる。そうであるからこそ、これまでと同様、描かれた意味をきちんと読み解きたいと思った  謎解きは苦手だけど、明らかなヒントとして「ドレミの歌」も貰っていることだし、少し頑張ってみよう。  まず、音階としての「ソレラ」が浮かんだ。  白色のチョークで描かれた「ソレカラ」は緑ではあるが「黒」板に描かれている。白と黒から「鍵盤」を連想させようとしているのではないかと考える。「ソレカラ」の中で「カ」以外は音階として存在し、「ソレラ」がこの謎の答えであり、元部長の真意と考えた。  しかし、「ソレラ」と関連する曲や事柄は思い浮かばないし、「それら」の指す「それら」がわからなかった。今日片付ける予定の作品たちの中の「どれか」とも思ったが、今は見当が付かないので別の意味を考える。  次に、「悲しい」が浮かんだ。「ドレミの歌」から、音階に関係があると考えた。「ソレカラ」の中で「カ」だけが音階には存在しない。そのことから「カが無い」として「カ無し」と略し、「悲しい」とした。僕はさみしいのだが。  ただ、そこまで考えて、いささか安直すぎると感じたし、強引すぎるなとも思った。別の意味を考えよう。  でも、僕の思考は止まったしまった。新たなアイディアが浮かばないこともさることながら、だからこそヒントを探して、元部長の描いた「思い出」の数々を見て物思いにふけっていたからだ。  四季折々、イベントごと、いや、たとえ特筆することが何もなくても、描かれたその「思い出」たちを見ながら、思い出していた。描かないでほしいと言っても、「思い出だから」と僕が映り込まされた数々。当時は、なんの嫌がらせかと思っていたが、今こうして見ると感慨深い。  「隣が拘りだ」と言っていた「ファール直撃の隣のキミ」とか、「観覧の目的は君だけだ」と言っていた「しんどそうに走るゴール前」あたりは、僕の痴態が描かれているので悪意が垣間見える。でも、廃部寸前の元部長一人だけの美術部に、僕が来た時の「ミラクル」は少し誇らしいが、気恥しい。  あと、元部長の作品をけなした奴らと喧嘩になった「怒髪天を衝く背中」。これについては、僕の尖っていた頃の黒歴史なので絶対に公表しないでほしい、とお願いしたところ、珍しくも「もとよりそんな予定は無い」とされた作品である。他のも、その予定であってほしかった。  どれもこれもが懐かしく、だからこそ切なくなってしまった。今この場に無い「連絡を待つ」も、もう一度見てみたいと考えてしまうほどだ。  …ここで、天啓を得る。これが「答え」か?
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