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「変わらないな」
まず、分かりやすいヒントからすると、音階が今回のメッセージの肝だろう。わざわざ「ドレミの歌」と「音符」を卒業式の日に描いた上でそれを説明したり、作品の頭文字に音階の全てを含ませていたことからも明らかだ。質の低い「ラッパ」は、これを思いついた後に急遽作ったのだろう。
次に、「それら」や「悲しい」といった僕でも分かる安直な内容は、本当の答えから視線をそらすためのブラフだろう。「それら」は元部長の作品のどれかとできるが断定はできないし、「悲しい」も何が悲しいのかをそれだけで判断することには無理がある。元部長がわざわざ伝える「メッセージ」としては、弱い。
そこで、元部長の作品作りの傾向を考慮する。作品の「メッセージ」を、直接的にわかるように表現してこなかったのが元部長だ。「空」の時もそうだったが、「作品」を見た後の動きも元部長の「メッセージ」の一つになる。つまり、これらの「ブラフについて考えさせる」ことが目的で、「仲間外れを考えろ」と言いたかったのだろう。
その上で「ソレカラ」に戻る。「ソレカラ」を頭文字に持つ、「空」「連絡を待つ」「カッカッ」「ラッパ」、この中の「仲間外れ」はどれか?
加えて、今日この場に僕が来た理由は、卒業生の作品の処分だ。わざわざ今日、この場で、分かるように「ソレカラ」を残した理由は「その目的を踏まえろ」ということだろう。
今日の目的の中で「仲間外れ」、それは「僕が今日処分できないもの」。つまり、唯一持ち帰られた「連絡を待つ」だ。
…多分、合っていると思う。でも、そうであるならば、あまりにも、ひねくれている。元部長らしく、いじらしく面倒くさくもあるが、とても愛らしい。
まだ、これが正解かはわからないし、他の答えかもしれない。ただ、そもそもどんな「答え」であっても、正解になるのだから「追加の指示」はいささか反則だとも思う。
いや、咎められるべきは、この「ソレカラ」をこれまで怠った僕の方か。さみしさは、自分のせいだし、元部長に悪いことをしていたのも僕だ。今回の「答え」が無いからこそ「悲しい」思いをさせていたかもしれない。
早速、「宿題の答え」を含めた、元部長へのメッセージを打つ。でも、数文字打って指が止まる。元部長の作品からの「声」ではなく、直に声が聞きたくなってきたからだ。
そう思うが早いか、元部長の番号を呼び出し、電話を掛ける。開口一番「遅い」と言ってきそうだな、と思って苦笑しながらコール音を聞く。
すると、聞きなれた着信音が、廊下から聞こえた。
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