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ウェイトレスは怪訝そうにまじまじと見つめてくる。
「そのバッジ本物? あなたヤクの売人にしか見えないわ」
「何でもいいから、早く責任者を呼べ」
ウェイトレスは店の奥に向けて大声を張り上げた。
「トミー。クレーマーがお呼びよ」
「俺はクレーマーじゃない」
「どうかしら」
店主はすぐに現れた。イタリア系。理性的かつ秩序的な目をした大男。一見して強面。その実、こういうタイプは手懐けやすい。
駐車場の防犯カメラ映像を見せて貰った。ヒスパニック系のスキンヘッドの若者が、ホンダのドアを開けて車内を物色する様子が映っていた。黄色のバンダナ。黄色のスニーカー。ギャングだ。映像で見た限りでは、ドアロックはされていない。明らかにジャックのヘマが原因だが、今となってはそれも大した問題ではない。
「ああ。こいつ」
店主は、顔を険しくした。
「知ってる顔か」
「ああ。知ってる。だが、名前までは知らないな。けっこう道でよく見かける顔さ。こいつ、六四年型のインパラに乗ってるんだ。うちにもたまに食いにくるよ」
「また来たら、俺個人に連絡して欲しい。間違っても警察のコールセンターには連絡しないでくれ」
名刺を差し出した。俺の携帯電話番号が記してある。
「あんた、警官なんだろう。なぜ警察を通したら駄目なんだ」
「ワケありなんだ。頼む」
百ドル札をカウンターに置いた。とたんにトミーは機嫌が良くなった。
「映像をプリントアウトしてやろうか」
「頼めるか」
「お安いご用さ」
プリントアウトした窃盗犯の写真を何枚か貰い受けてから、念を押して口止めした。その上で、トミーにもう百ドルを重ねて手渡した。「俺とあんたの秘密だぞ」
トミーを指差しながら後退り、ウインクしてから店を出た。
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