特殊図書分科会の新米司書

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「くっ、くるなぁーっ!!」 ここは魔術で栄えるとある国家。その国立図書館の一区画「特殊図書専用書庫」の中を、僕は走り回っていた。正確には、逃げ回っている、と言ったほうが適切だろう。なにせ今まさに、後ろから巨大な怪物が追ってきているのだ。優に成人男性の倍以上はある。青味がかった銀の毛並に、大きな鋭い犬歯。狼のような姿をしているが、四つ足の爪と、狼ならば存在しえない額の角が氷で出来ていることからも、それが普通の生き物であるとは考えられないだろう。 「こんな、凶暴なっ、魔術書まで、あるなんて……っ!」 息切れの合間に、呟きを絞り出す。冷気を纏い、しかし燃え盛る焔のような瞳でこちらを見据えながら向かってくる怪物、いや――魔術書を一瞬だけ見やり、僕は走り続けた。
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