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3話
翌週、俺達はタカタサーキットに走りに来たものの…
「…雨じゃねぇか!!!」
天気は雨、路面はびしょびしょに濡れており、とてもタイムを出せるような状態ではなかった。
「いや〜途中までは晴れてたんだけどね」
八郎が残念そうに言う。
俺たちが住んでいるところからサーキットまでは1時間半から2時間。
その移動の間、目まぐるしく天気は変わったが最終的にたどり着いた時には雨だった。というわけで俺達はパドックに赤のロードスター NCECと白の86を置いたまま途方に暮れていた。
「これからどうするよ?」
八郎が聞いてきた。
「こんな日はもうアレで練習するしかないだろう」
「なるほど、アレね」
アレだけで理解できたらしい八郎はそのままエンジンをかけて86を走らせて行った。俺も八郎に続きロードスターを走らせて、中国自動車道へと続く高田ICへと向かった。
※
タカタサーキットを後にした俺達がやってきたのは広島市内。
安芸高田からだと高速道路を使って1時間ほどだろうか。
車は適当なコインパーキングに置き、俺は八郎と市内最大の商店街、本通り付近に来ていた。
周囲には近くにある本川高校の制服を着た生徒が何人かいた。
今日は土曜日だが部活の帰りとかだろうか。
その中のカップルらしき二人組は「今日はあんたがケーキ奢ってもらうわよ!」「勘弁してください翼さん…」などと騒いでいる。仲良さそうだな。
だが俺達走り屋に女はいらぬ。欲しいのは最速のプライドのみ。あと金も。
「嫉妬してるとこ悪いけど、こっからしばらく歩くんだっけ?」
「嫉妬してねーし!?」
八郎から茶化されたがそれは軽くあしらって(?)俺達は本通りから南に向かって歩き始めた。
※
そして中国電力本社、中電前付近に目的の場所はあった。
「ここって…」
「シミュレーター施設!」
俺はビシッと目の前のビルの1階に展開しているテナントを指さした。
その中にはドライビングシューズ、グローブを装着して運転する本格的なドライビングシミュレーターが設置してあった。
受付を済ませて店内へと入る。
値段はたったの10分でも1000円。
シミュレーターであろうとお金のない走り屋にとっては決して安くない出費だ…
続いてコースを選ぶ。
鈴鹿サーキット、ツインリンクもてぎ等国内のメジャーなサーキットもシミュレーターならいつでも走れるが……今は走り屋のプライド(と金)のためだ。
俺は迷わずタカタサーキットを選択した。
最近はシミュレーターでもタカタを走れるようになった。
良い時代になったものです。
シューズとグローブを装着し、シミュレーターに乗り込む。
「八郎、悪いがお前には勝たせてもらうぞ」
「はいはい、いってらっしゃーい」
八郎は俺の後に走ることに。
ここは奴の戦意を削ぐために先に神ラップを叩き出しておく必要がある。
そして何よりシミュレーターには実車と違い事故して怪我をするリスクがない。
つまり、俺のような金のない走り屋にとっては最高の練習環境なのである!
「つまり!! 今の俺に怖いものなどない!!!」
アウトラップを走り終えこれからアタックに入る。意気揚々と1コーナーに入って行き、俺は高速で最初のコーナーを駆け抜け---
「ってうわあああああああああああ!!!」
…ることなく高速でスピンしてコース外の木に激突した。
シミュレーターあるある
怪我しないのを良いことに、調子に乗ってすぐに事故る。
※
「怖かったよぉ…」
「いや〜楽しかったね〜」
意気消沈の俺とは対照的に八郎は心底楽しかったといった様子でシミュレーターを後にした。
その理由が、シミュレーター上のタカタサーキットのレコードタイムに迫る記録が出せたからなのか、それとも怖がっている俺を見れたからなのかは知る由もないが、前者であることを祈る…
いや、多分両方だな、うん…
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