1章:6ヵ月前-企画立案-

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数十人の男と一度に性交をする事をそのまま言葉にしただけのセンスのないタイトルと、タイトル通り何人ものパンツ1枚の男に囲まれる形で座っている、下手するとまだ10代の少女のように見える女性が写ったジャケット。 全裸の女性が体中に落書きをされ、煽情的に正面を見たまま股を開いたジャケット。 首輪と開口具を付けて限界まで口を開かされた女性、その横に書かれたキャッチコピーもあわせて彼女を完全に非人間として扱っているジャケット。 急にそんなものが画面狭しと大写しになったもので、口をあんぐり開けたままの社員や目を逸らした後にチラチラと視線だけ画面に移す社員、隣同士ひそひそ話す若手など、予想通りの冷え切ったリアクションだった。それを見届けてから話を続ける。 「無料で見れるエロが増えて、女優も増えて、となると単なるAVじゃなくてそこにギリギリの過激さを盛り込まないと埋もれてしまう。 だからこうやって、アイドルみてぇなルックスの女が何十人もの男たちにヤラれたり、積極的に男の排泄物を飲み食いさせられたり、リンチみたいな暴行とか非人間的な扱いをされるような作品もたくさんある。見せる仕事の限界まで挑戦してんのかもしれないが、もう人として当たり前の常識そのものが欠如してるみたいだな。 女優が増えて、ノーマルなプレイだけじゃ客が買わねえから、NGのない女優が積極的に、それこそ人間としての尊厳を全部ぶっ壊されるような、観る連中の加虐心を煽るようなものを作るようになったんだよ」 「あ、で、でも、そういう、例えば無理矢理みたいなやつって結構前に問題視されて、それからどんどん無くなっていったんじゃないですか?」 大きく口を開けていた若手の一人が反射的に質問してきた。 「そうそう、その通り。だから、特に派手目なセレクトで画面に出してるこのジャケットはごくごく少数の制作会社が『本作は出演者の了承を得てます』なんてご丁寧に本編やジャケットやサンプル映像にも表記しているようなスレスレのものだ。 それより、俺が今回こんな刺激物を見せたのは、作り手じゃない、もう一方の側に注目してもらいたいからだ」 目で指示を送ると、ショッピングサイトのようなページのキャプチャ画像に飛んだ。 「ええっと、ここでいくつかピックアップしたユーザーの声を見てもらおうかと思う」 『この女優はこれぐらいでは平気な変態女だから、メーカー様、次は死にかけるくらいのやつはどうでしょうか?』 『首絞めが生ぬるいです、反応も鈍いのでいっそガチで絞め落としてほしい』 『女優がやる気ない。自分もこの襲う側のエキストラに加われるならビンタのシーンでリアリティの為に腫れあがるまで顔面を殴打するけど』 などの文章が並んでいた。 「匿名のこのレビューは結構えげつないよね。 普段リーマンかなんかやってるはずの連中も多くこういう作品を買ってるだろう。スーツ着てニコニコして、上司に頑張りますと言って、後輩に頑張れと言って、プロジェクトの成功を祝って軽く一杯、そして満足気に家に帰った後、一日で一番のお愉しみを満喫した後にこういう加虐的な感情を剥き出しにする。さて、どっちが窮屈じゃない本当の自分? まあ、書いてる連中のどこまでが本気かはわからん、だが、願望として人間の加虐心の果てに、生きるか死ぬかの狭間を見たいって奴はいくらでもいるって事だよ。だから作る側も、演じる側も、飯を食うためにそれに応えないといけない」
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