15章:ディスコード

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「古城か……」 通知を読みながら小さく呟く。 「なによダンナ」 香澄が端末を覗き込む。無防備な距離感の取り方に後藤は先ほどから戸惑いっぱなしだった。 「このターゲットになっているキリングマシーンというのは、俺と同じグループにいる奴だと思う」 「……まさかコジョウって、殺人犯の古城マサオ?」 「マサキだ」 「そうだっけ。って、そんな……まさかそんなヤバい奴が?」 「え、ちょっとその話、マジすか」 Sinnerが目を見開いて近づく。 「当時相当なニュースになってましたし、でも何でまだ刑務所にいないんすか、死刑でもおかしくないような奴でしたよね」 「その後のニュース見た?結局、殺人の証拠がほとんど見つからなかったのよ。それで、最終的な落としどころが死体損壊とか、隠蔽とかだったはずよ」 「考えようによっちゃあ奴が本当に人殺しでないかもしれないが、俺には分かるよ。監獄(なか)にいたとき、あいつは自ら事件を起こす事はなかった。でも、周りの連中が常に奴を恐れてその周りを囲んでいた。 みんな分かっていた、犯罪者ですら恐れるほどの空気を」 小声で話しながら階段の近くに来た時に、香澄がグッと肩を引っ張ってきた。 「っどうした」 「急いでみんなどこかの店に隠れて」 早口にそうまくし立てた後、香澄は端末の地図画面を表示した。 チカチカと目が痛くなりそうな蛍光色を見ているとその意味が分かった。 ミッションが始まった。古城マサキの居場所が通知されたのだ。 そしてその場所は、このすぐ近く。 「古城はすでに大暴れしている……ウォーミングアップ完了どころじゃないな。情けなくてすまんが、俺は奴とやり合うつもりはない」 さすがに大人数人で取り囲んで倒せない相手ではない。そもそも自分と古城はCグループのルールとして武器類の使用を禁じられている。 もちろん、あくまで報奨金がなくなるだけだからいざとなったら自衛のために持つ事は選択肢の一つではあるが、少なくとも古城は今の段階では何も持っていないだろう。重火器を持った人間ではない。 だが、無傷で倒せる相手でない事は分かっている。 「そこの店はどうっすか、Gさん。スペースが結構ある……」 こちらの目線の先に気付いたのだろう。Sinnerが言葉を止め、ゆっくりと振り返る。 「こ、古城だ……」 肩まで伸びた長い髪。切れ長の目。無地の黒いTシャツ。飾り気のない中にも誰よりも派手に見える男がいた。 想像していた、返り血にまみれたような外見ではない。 だが、確実にこの男は何人もの断末魔の悲鳴をその身に吸い込んでいる。 「みんな、散れっ!こいつとは戦うな!」 「……っ!!」 背後の男から逃げようとしたSinnerが次の瞬間、背中に強烈な蹴りを受け、前のめりに倒れる瞬間を後藤はまるでスローモーションを見ているかのように、ただ唖然と見つめていた。
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