15章:ディスコード

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「赤城君」 階段を下りるタイミングで急に声を掛けられた。振り返ると、広報担当の明坂(あけさか) 久美(くみ)の姿があった。 「ああ、えっと……メガって呼んだ方がいい?」 「海田サンが呼んでるだけなのでその謎の気遣いはいらないっす」 「あ、そう……」 この番組を企画している途中でプロジェクトに入ってきた明坂は数少ない女性スタッフであるにも関わらず、比較的積極的な態度を当初から見せていた。 背が高く、スーツを着たおかっぱ眼鏡の雰囲気から、なんだかドラマでベテラン刑事の横に付いている新人女性刑事のような見た目だなと初対面の際に思っていたが、今日もフォーマルな恰好は崩していない。 「ちょっと聞きたいんだけど、なんか番組の方針が変わってきてない?」 「というと……?」 「変な条件が一部の参加者に配信されてるみたいなの。薬物使用の過去がある参加者に対して、今出ているミッションをクリア出来たら薬をプレゼント、みたいな告知を数秒だけ出して焚きつけたりしてたって。 配信のチームは指示が出たから流したって言うんだけど、そういうので戦いが激しくなっているみたいで……」 「海田サンの指示じゃないんすか?」 「だから探してるのよ。知らない?」 「……いや」 「ならいいけど。見つけたら教えてくれる?こっちは最大級の炎上にならないように裏で働きかけていたっていうのに……」 「スマホはどうっすか?」 「出ないのよ。鳴るんだけど」 そう言いながら明坂は早足で踵を返す。 「あれ……?」 正面で向き合っていた時は気付かなかったが、スーツのスカートの下、腿のあたりが汚れているように見えた。 怪我をしたのかと直感的に思ったという事は、それは血なのだろうか?しかし、何故……。 だがその疑問を考えている暇はなかった。他に誰もいないかを確認し、赤城は音を立てずに階段を降りた。 9ebf33ab-75b5-4222-be59-e98231a5a63d
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