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「正確には、情報漏洩っつーよりむしろネタバレを危惧してるっていう言い回しの方がしっくり来るかもしれない。
一部の役員と、極秘で会場手配を進めている部門とプログラム作成をしている部門しか知らなかったこのリアルファイト番組の本当の顔がこれだ」
若手エンジニアのアドリブなのか、プレゼン画面の中央のデカデカと表示された『デスゲーム配信企画』の真っ白だった背景がゆっくりと赤く染まっていく。
プレゼン資料の単なる初歩的なアニメーションのエフェクトなのだが、そのシンプルさが寒々しく感じてしまったそこにいる社員達は、その画面を凝視しながら、時折こちらの顔を盗み見ているように思える。
しばし時が止まったように、ゴクリ、と唾を飲む音が断続的に聞こえる他は、プロジェクターの排気音だけがしばし場を支配していた。
「簡単に言えば、単なる素人同士の戦いを茶番でなく本気なものになるように誘発する。それも、エンタメ要素でどんどんユーザーを増やす。
オフィシャルの告知は、事前のボカした感じのを一発、数日前くらいにダメ押しでちょいネタバレっぽやつを一発、これででいく。詳しくはこの後じっくり詰めていこう」
頭の中に今後の流れがある程度イメージ出ているため少し前のめりに熱弁するが、話が飛び過ぎているからか、そこにいる全員がどう感じているのか読み取れない。
ただ一人、親会社の会長の秘書である篠田は最初から地蔵のように動かず、表情も変えず、端に座っていた。それが不気味で仕方ない。
そもそも、篠田をこの会議に呼んでいない。会長からの命で来たのだろうか。まるで監視されているようだったが、そもそもオブザーバーですらないので異議を唱えてくるとも思えない。このまま進めていくしかない。
「いやでも、これって大事故になるかもしれないじゃないですか」
ひとつかふたつ年下の営業部の坊主頭が画面に釘付けのまま声を上げる。
なるほど、やっとここで及第点なコメントが出てきた。及第的だが、人間の本質が鍵になっているこの企画ではまずこの話が出てこなければどうしようもない。
「質問、早速どうも。では、答えを提示しよう」
エンジニアに目配せをする。
すると、カチャ、という音の後に「プレゼンは以上」という表示と共に画面がブラックアウトし、また場がざわつく。
「えっ、どういう……」
「こういう事だよ」
「いや、だから、こういう事ってなんすか」
少し溜めてから、
「つまり、知らない。そんな事故なんか起きても」
可能な限り感情を込めずに言った。
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