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序章
市内の公園は、日曜という事もあり多くの人が訪れ賑わっていた。
芝や、花。その半分は人工のものだ。環境保全を何十年も人々は叫び続けたが、多くの人にとってそれは漠然とした課題でしかなく、目の前の便利なものを皆が優先させてきた事が大きな原因だ。
だが、人間はそんな過ちを繰り返すと同時に、新しい便利なものを発明し続けた。この公園もまた、自然が破壊され続けているにも関わらず、人工的に見えないような造花や芝で景色は彩られ、一目見ただけでは自然が失われているようには見えない。
危機感を抱く人間は減り続けている。
いつか、末期状態になる日まで、人類は便利さを霧のように人々に振りまき、多くの人間はその奥の現実に気付かないままだろう。そう話す専門家もいたが、それでも何も変わっていない。
そんな人工的な美しさをもった公園のベンチに少女が2人、腰かけて笑っていた。
片方の少女がとても愛くるしい笑顔を、隣にいる少女に見せる。切れ長な眉毛、ぱっちりと大きな瞳、薄いピンク色で少し厚ぼったい唇、風にさらさらと流れる長い髪を栗色に染めており、シャンプーの香りが風に乗って流れる。
「やめてよ、くすぐったいでしょ」
「ごめんごめん、髪サラサラだから撫でたくなっただけ!」
「はいはいどうも」
ベンチに座る彼女たちは同じ学校の制服を着ており、若々しさゆえ禁忌の果実のような美しさを放つ太腿を、風が吹いてスカートを揺らす度に近くに座っている老人がチラチラと盗み見ているのにも気付かず、顔を見合わせたり、正面の光景を見ながらとても楽しそうに雑談を続けていた。
その横のベンチに座っていたOL風の女性も、小柄な老夫婦も、みな一様に目の前の景色を興味深そうに見ていた。穏やかな春の風がそこには流れていた。
「あ、すっごい綺麗!」
栗色の毛の少女が思わず声をあげる。
「なになに」
「見れなかったの?超もったいない・・」
「もったいぶってないで教えてよー」
「どうしよっかなあ」
「ちょっといいから話してよ!」
「だからあ」
少女がそれこそもったいぶるようにゆっくりと語尾を伸ばす。
「今すんごく綺麗に真ん中に決まったの」
まるでサッカー部のエースが華麗にシュートを決めた、とはしゃぐような口ぶりで少女は続ける。
「あのね、膝が相手の顔に思いっきり入ったの!血と歯が一緒にドバっと飛んだの!
顔のちょうど真ん中から歯が何本か、すごく綺麗に折れたんだよ!」
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