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葬儀
月ヶ瀬家の当主が死んだ。
そのニュースは、あっという間に町中に広まった。
月ヶ瀬家は、代々続く大地主の家系だった。広大な土地と山、そしてそれに伴う金の力でこの辺り一帯において絶大な権力を持つ一族だ。昔は多くの小作人を抱えた豪農で、戦時中は軍に物資を納めて儲けていたという。
住宅地の一角を占める重厚な西洋風の邸宅。威風堂々としたその家は、町の誰に訊いても──それこそ小学生でも──「月ヶ瀬の家」と言われればわかる。それほどの存在だった。
その月ヶ瀬の当主である月ヶ瀬弦太郎が突然死んだのは、三月になったばかりのことだった。
今年で七十になる筈だったこの老人は齢を重ねても好奇心も行動力も旺盛で、度々自ら車を運転してドライブに出かけていた。その行く先は隣町にあるキャバクラで、お気に入りのキャバ嬢とはメールやLINEでやりとりをしているという事実は、大抵の者が知っていても知らない振りをしていた。
その行動力が今回は仇になったようだ。弦太郎の死因は隣町から戻る際の交通事故で、わざわざ山道を通ろうとしてアクセルとブレーキを踏み間違え、暴走した挙句に崖から転落した。自分以外に人的被害を出さなかったのが幸いと言うべきか。
とにかく、月ヶ瀬家の当主は死んでしまい、町の人々は口々に噂したのだった。月ヶ瀬家の遺産の行方はどうなるのか、と。
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