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次女・望美(21)もやはり金がなかったが、彼女だけは他の者達とは事情が違った。
彼女は、弦太郎の正妻である待子との娘ではない。月ヶ瀬家の家政婦として雇われていた母・秋絵に弦太郎が手をつけて生まれた子である。弦太郎はほんのお遊び程度だったのかも知れないが、秋絵にすればたまったものではない。
待子は激怒し、身重の秋絵をわずかな手切れ金と共に叩き出した。秋絵は子供には罪はないからと望美を産み、彼女を育てる為に昼も夜もなく働いた。
それが良くなかったのか、秋絵は望美が16歳になった頃に体を壊して死んでしまった。親族も居らず途方に暮れていた望美に救いの手を差し伸べたのは、意外にも弦太郎だった。
弦太郎は望美を月ヶ瀬家の娘として引き取った。妻の待子が既に亡くなっていたからこそ出来たことではある。おかげで望美は大学まで進学出来たが、それはこの家に縛りつけられるのと同義でもあった。
望美は学校に通いながら、この家の家事を一手に引き受けていた。弦太郎からわずかな小遣いをもらうだけで、ほぼ無給の家政婦のような扱いだった。彼女は若い娘でありながら、お洒落の一つもせず化粧っ気もない、地味な格好でいるしかなかった。
認知はされているので望美も相続人の一人には違いないのだが、その出自の為に望美は他の三人の兄妹からは疎まれていた。街の住人達も皆望美の境遇は知っており、それ故に内心望美を不憫に思っている者も多いようだが、表立って口に出す空気はまだこの町にはなかった。
そんな日々を望美は淡々と暮らしていた。
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