魔王だってたまには泣く

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 人でも家畜でも、魔物でも魔族でも。  それこそ、今ここで阿呆みたいに口をあけて涎を垂らしながら、ニヤニヤと気持ちの悪い顔で、なんの夢を見てるんだかモニョモニョと俺には聞こえないくらいの寝言を言っている魔王ですら。  最愛の人との別れは堪えるのかもしれない。  生きるのに必死すぎて笑えるくらい、愛だの恋だのといった人生においての付随品みたいな物に全く心を動かされなかったし、そんなものより今日たった今食べるものをかき集める方が大事だった。  だから、愛だの恋だのなんて僅かばかりも腹が膨れないものにはなんの興味もなかった。  だから魔王ガルデリカがそんな物にうつつを抜かすなんてよっぽど暇なのかと思っていた。魔王なんて、部下だの腹心だのと手駒が余るほどいるのだから、考えるのが仕事みたいなもんか・・・とここに連れてこられた時には思ったもんだった。  それでも長い事、平和なこの場所に居すぎたせいか・・・たった二年にも満たない時間でも、俺にはとてつもなく長い時間で、そんな長い事魔物の襲撃やら王都からの搾取やら盗賊からの略奪なんかに怯えなくていい、平和なこの場所に居すぎた俺は、魔王のように考えるという事が多くなったのかもしれない。  何をするのかを考え、筋道を立てて行動し、結果褒められも怒られもしないけど。  ガルデリカの機嫌が良ければ俺の行動は正しかったのだろうし、周りに当たり散らす事が増えれば俺は間違っていたと思えた。  そうしてガルデリカの機嫌が一定日数良ければ、腹心と呼ばれる魔族に睨まれる事も無いし俺だって気分がいい。  だからといって、その結果考える事が増えてもそれは、自分のやらなければならない事だったり、中庭の母親の事だったりロティたちの事だったりする。  間違っても愛だの恋だのと言った不確かなものについて悩んだりしないし、生まれてこの方そんな悠長に考えたりできる環境ではなかったんだから、改めて考えましょうと言われたところで・・・である。  が。
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