第二章 『盗賊』対『盗賊』

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 お嬢の銃弾が俺たちの周りに雨のように降り注ぎ、撃たれた屋根瓦がばらばらと音をたてて崩れる。  前の菊之助が刀の刃で身を防護するように防ごうとするが、果たしてそれで持つのか。  と思ったら、お嬢の着物がぶわりと浮き上がった。 (!!)  月夜に舞い上がるその姿。  俺目掛けて飛び掛かってくる!  とっさに身構えたが気づいたらお嬢は俺のすぐ傍にいて、腕を掴まれると羽交い締めにされる。  ガチャリ、と頭に銃をつきつけられた。 「前も思ったけどサ、この小さい坊ちゃんは周りに助けられてばかりだね? 自分一人じゃなんもできないのかな」  ぐり、と銃口で頭を小突かれ、冷や汗がどっと出てくる。 「……っ……あ……」 「おい、五郎から離れろ」  菊之助の言い分にも耳を貸さず、 「あー、こんなひよっこみたいな奴の脳天ぶちぬいても、面白くないじゃんね。でもまあいいかア……」  お嬢はあっという間にその引き金を引こうとする。  が、そのとき屋根の向こうから何かが飛んできた。  紐?  いや、違う。  縄だ。  投げ縄だ。  その縄は器用にもお嬢の銃を捉えると、彼の手から銃をかっさらった。  一瞬にして弾き飛ばされるみたいに、銃はお嬢の手から奪われた。 「――――なあにこれ、いいおもちゃだねえ。俺がもらっちゃお」  投げ縄の持ち主は、俺たちよりも更に高いところにいた。  寺院の屋根の近く、張り出した巨大なクスノキの枝の上に、一人の少年が立っている。  そこからひらりと屋根に渡り、颯爽と歩いてきたのは白波五人男の一人、童顔の美少年・赤星十三郎だった。 「……ほんと、坊ちゃんのお守りは人数が多いんだね」  お嬢はあいてしまった片手をひらひらさせながら、呆れたように言う。 「大事な新人の面倒をみんなでみて何が悪いの?」  十三郎はお嬢の銃を懐にしまうと、俺に向かって手を差し出した。 「五郎、今度からは俺についてきなよ。菊之助(こんな奴)じゃなくて、俺のほうが絶対頼りになるよ♪」 「あ゛?」 「ほらあ、こいつ偉そうにしてるだけで実質役に立たないから」 「おい、なんでここにはクソみたいな口利く奴しかいねーんだよ」 「煽り耐性も全然なくて、ほんと子供みたいだよね」 「黙れ!!」  へらへらしている十三郎を、睨みつける菊之助。  しかし、お嬢に囚われて固まったままでいる俺を見ると、「あ、そうだった」とばかりに思いとどまってくれた。 「そうそう、お嬢吉三の銃の入手経路とか、そのへんも結構気になるんだけどさあ……」  十三郎は手をぱんぱんと払うと、また新しい縄を取り出した。 「そういうのは半殺しにしたあとで、洗いざらい吐いてもらおうぜ」 「じゃあ僕が縄で彼を拘束しにかかるから、菊之助は攻撃してその隙を作って」 「俺に指図してんじゃねえよ」  また言い争いが始まったのを横目に、お嬢はそれを静観している。  ただ、そのときは何故か敵意を忘れたように凪いだ表情で、捕らえたままの俺に言った。 「……坊ちゃんは、寛和とは違うんだね」 「え?」 「お前は、寛和にないものを持ってるんだね」  お嬢は菊之助と、十三郎のほうを見ながら言った。  ……それは。  仲間がいる、ということだろうか。 「……あの、お嬢吉三。あなたは誰を、どうして……」  憎んで、寛和と手を組んだの。  と俺は聞こうとしたが、 「ハア!?!? お前が先に手柄をあげたら、お前に『弁天小僧』の座を譲れだあ!? ふざけんなそんなつもりは一切ねえわ!!」 「だって~~~僕ほんとは『赤星』よりもっと目立つ役柄がいいんだもん、主役にふさわしいのは絶対僕でしょ!」 「てめーみたいな擦れたガキは一生舞台の端で酢昆布でも食ってろ!!!」 「うわなにそれ死ぬほどつまんないんだけど」 「………」  お嬢は言った。 「まあ……あいつらを黙らしたあとに、坊ちゃんの話相手やってあげるよ」  と、笑顔だった。 「決めた。三人吉三をしばいたあとに、次にしばくのはおめーだわ」 「へえ、やれるもんならやってみなよ」 「いや、二人ともいつまでやってんの!?」
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