第二章 『盗賊』対『盗賊』

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 俺と力丸さんと、菊之助で現場に向かう。加えてそこに、気を失ったお嬢吉三を担ぎ上げた和尚吉三が続く。  寺院の入り口は爆風で土煙が立ち込め、そこには一人の男が倒れていた。  色素の薄い髪に眼鏡、しかしその身体はぼろぼろで、血が流れている。 (利平さん……!?)  度重なる攻撃で受けた傷なのだろう、見るも無残な姿になった利平さんは、意識を失ったまま横たわっていた。  すると、動かない彼の元に、ざっ、と誰かが近寄った。 「――――忠信利平。白波の五人衆のうちの一人」  倒れている利平さんを、虫けらでも見るような目で眺める、その男。 「まあ、『脇役』ってところかな」  そう言うと、寛和は利平さんの身体に手を伸ばした。  やめろ、と叫ぼうとしたそのとき、どろんと空間が裂かれ、鬼火の中からもう一人が現れる。  どこからか出現した眼帯の男、日本駄衛門は、寛和を制するように利平さんの前に立ちふさがった。  それを見た寛和は嗤う。 「はは、部下は捨て駒ってところ? それとも、使えないから俺にくれるの」 「……」  親方は、懐から煙草を取り出すと、ゆっくりと火を点けた。 「やっぱ『脇役』の役者って強くないんだね。俺がちょっと虐めたら、すぐボロボロになっちゃった」  寛和は屈託のない笑いを浮かべ、両手を差し出す。 「そいつの『札』、俺に渡してよ。あんたもいらないだろ、そんな雑魚」  親方の煙草の火がジジ……と燃えていく。 「利平、お前のおかげで助かったよ。時間を稼いでもらったからね」  ふう、と煙を吐き出すと、彼は言った。 「けど、そろそろ戻ってきてもいいんじゃない。そこで寝てるのも飽きたんじゃないかな」  その言葉に、意識を失っているはずの利平さんの手が、ぴくりと動いた。 「寛和くんにいいようにされて、そのままでいられるたちじゃないだろ、お前は」  親方は利平さんのほうを振り返る。 「帰ったら、お前の好きな油揚げ、目一杯用意してあげるよ?」  利平さんの手が動き、その懐で小さな何かを掴んだ。  それは――――『二枚目の札』。  キーン!! という音が鳴り響き、彼の姿が光に包まれる。  そこから現れたのは、衣装が変わり、白い着物に身を包んだ姿。  頭からは狐耳が生え、手に持つ妖刀は以前と変わらず、しかしその髪は腰まで伸びている。 「ちょっと、ひどくないですか! 油揚げで釣るなんて……恰好がつかないでしょう、これ」  自分の新たな姿を確認しながら、利平さんが不服そうに言う。 「……二枚目の札、『狐忠信』」  寛和が一人で口にする。 「何枚札を持ってたって同じだよ。むしろこっちは獲りがいがある」 「おや、そうでしょうか。私は捨て身の戦いができて便利ですけどね」  利平さんが両手で印を結ぶと、ぼうと青い狐火が上がり、寛和の周りを取り囲む。 「木下寛和、大人しくなさい。――――私たちは、転んでもただじゃ起きませんよ」 「……」    そのとき、寛和の目が俺たちを捕らえた。  正確には、俺じゃなくて……お嬢と、和尚のほうを見ている。 「? お前ら……何をそこで突っ立ってんの」  苛立ったように声をかける寛和。 「さっき遠隔でまじないかけたのになあ。君らの仕事は何? 忘れちゃった?」  その言葉に、お嬢を抱えたままの和尚は一歩踏み出す。  そして、言った。 「寛和。俺とお嬢はこれから、おぬしと袂を分かつことにする」
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