第二章 『盗賊』対『盗賊』

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「おっと、呪縛が切れて身体が保てなくなったみたいだね。力丸、彼を安全な場所へ」  親方の指示で、力丸さんが倒れた和尚吉三を預かる。  その様子を見た寛和が言った。 「……肉体の『抜け殻』だけ拾う気? そいつの札はまだ俺が持ってるのに」  と、懐から二枚の札を取り出す。お嬢吉三と和尚吉三の札。 「そうだとしても今日は収穫があった。俺たちは、ひとまずおいとまさせてもらおうかな」 「え、こいつらちゃんとシメとかなくていいんすか?」  菊之助が親方に尋ねる。 「いや、こっちは思わぬ手柄もあったし、ここはいったん引いておこう。敵を殲滅するのも大事だが、『味方』が増えるとなると、取れる選択肢が広がるからね」  親方が手で印を結ぶと、周囲の空間が歪んだ。  地響きと共に巨大なお釈迦様――――体長数メートルもあるような仏像が現れ、その両手に寛和とお嬢吉三を包み込む。  幻影を用いた結界だ。 「君はしばらくそこから出られない。俺たちで和尚君を引き取らせて貰うよ」 「っ……」  お釈迦様の手に阻まれ、親方が寛和たちを動けなくする。 「次会うときは、お嬢吉三を渡してもらうからね」 「待て!」    寛和が鋭く叫んだ。 「――――お前らの『札』は必ず全て、俺が手に入れる。お(こいつ)を向かわせるからその気で待っていろ」  そうして、気を失っているお嬢吉三の身体を、庇うように抱き寄せた。  寛和の元にいるお嬢の腕や首筋は余計に細く見え、まるで本物の女の人のようだ。  それを見たときにどこかひっかかりを覚えた俺は、ある言葉が口をついた。 「兄ちゃん!」  俺はお嬢吉三を見る。 「……その人は、透子さんじゃないよ」  それを聞いた寛和は俺を見返していたが、黙ったまま何も言わなかった。    と、空を覆うようにして何か大型のものが宙を舞い、地面に降り立つ。  見ればそれは、七色の炎を纏った巨大な鳥だ。  それを操っていたのは十三郎だった。 「皆、この子に乗って帰ろう! 親方が用意してくれたんだ」  この鳥もまた幻影の一つらしい。令和座の全員が乗ってもまだ余るくらいの大きさで、俺たちはそれに乗り込んだ。意識を失った和尚吉三も一緒に連れて。  巨大な火の鳥は鳴き声を上げながら、その場を離れて上昇していく。  残された寛和は、俺たちのことを最後まで見上げていた。
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