26人が本棚に入れています
本棚に追加
「おっと、呪縛が切れて身体が保てなくなったみたいだね。力丸、彼を安全な場所へ」
親方の指示で、力丸さんが倒れた和尚吉三を預かる。
その様子を見た寛和が言った。
「……肉体の『抜け殻』だけ拾う気? そいつの札はまだ俺が持ってるのに」
と、懐から二枚の札を取り出す。お嬢吉三と和尚吉三の札。
「そうだとしても今日は収穫があった。俺たちは、ひとまずおいとまさせてもらおうかな」
「え、こいつらちゃんとシメとかなくていいんすか?」
菊之助が親方に尋ねる。
「いや、こっちは思わぬ手柄もあったし、ここはいったん引いておこう。敵を殲滅するのも大事だが、『味方』が増えるとなると、取れる選択肢が広がるからね」
親方が手で印を結ぶと、周囲の空間が歪んだ。
地響きと共に巨大なお釈迦様――――体長数メートルもあるような仏像が現れ、その両手に寛和とお嬢吉三を包み込む。
幻影を用いた結界だ。
「君はしばらくそこから出られない。俺たちで和尚君を引き取らせて貰うよ」
「っ……」
お釈迦様の手に阻まれ、親方が寛和たちを動けなくする。
「次会うときは、お嬢吉三を渡してもらうからね」
「待て!」
寛和が鋭く叫んだ。
「――――お前らの『札』は必ず全て、俺が手に入れる。お嬢を向かわせるからその気で待っていろ」
そうして、気を失っているお嬢吉三の身体を、庇うように抱き寄せた。
寛和の元にいるお嬢の腕や首筋は余計に細く見え、まるで本物の女の人のようだ。
それを見たときにどこかひっかかりを覚えた俺は、ある言葉が口をついた。
「兄ちゃん!」
俺はお嬢吉三を見る。
「……その人は、透子さんじゃないよ」
それを聞いた寛和は俺を見返していたが、黙ったまま何も言わなかった。
と、空を覆うようにして何か大型のものが宙を舞い、地面に降り立つ。
見ればそれは、七色の炎を纏った巨大な鳥だ。
それを操っていたのは十三郎だった。
「皆、この子に乗って帰ろう! 親方が用意してくれたんだ」
この鳥もまた幻影の一つらしい。令和座の全員が乗ってもまだ余るくらいの大きさで、俺たちはそれに乗り込んだ。意識を失った和尚吉三も一緒に連れて。
巨大な火の鳥は鳴き声を上げながら、その場を離れて上昇していく。
残された寛和は、俺たちのことを最後まで見上げていた。
最初のコメントを投稿しよう!