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第三章 和尚と透子
こうして、俺たちは寛和のもとから一時撤退した。
その戦果として、和尚吉三を令和座に連れて帰ることになる。
和尚の容態はすぐに回復し、翌日にはみんなと一緒に大広間で食事をするようになった。
「っかあーーーっ、やはり大人数で飲む酒は旨いな!!」
戦闘中に意識を失っていた様子はどこへやら、すっかり元通りになって焼酎をあおっている。
「いやはや、つくづくおぬしらには世話になるな。恩に着る。まさかこんなに大所帯の役者連中だとは、知らなかったぞ」
「こちらこそ、和尚くんをここに迎えることができて良かったよ」
にこにこしている親方。その横では、
「なあ、これ絶対俺のとこだけ野菜多くよそっただろ、力丸」
「そうか? 俺はただ、菊之助には好き嫌いなく何でも食べてもらいたいと思ってな」
「いや、俺が嫌いなの知っててわざと入れてるだろお前!!」
力丸と菊之助がまた言い争っている。もはや食事の度にこの光景を見ているような気が……。
「ごめんね。なんていうか、いつもうるさくなっちゃうんだ」
親方が謝ると、和尚はガハハと笑った。
「賑やかでいいじゃねえか、皆で食ったほうが飯は旨い! それに……」
彼は力丸と菊之助のほうを見た。
「あやつらを見ていると、思い出すのだ。あの二人は、俺とお嬢によく似ている」
懐かしむようにする彼の姿に、親方はまた酒を継ぎ足した。
「……大丈夫。お嬢もそのうち必ず、君のところへ戻ってくるよ」
一方の俺は、ご飯には目もくれず、ぼんやりとスマホの画面を眺めていた。
「おい、五郎。食べないのか?」
「え……ああ」
和尚に声をかけられて、顔を上げる。
「聞けばお前がこの令和座をつくるに至った、柱のような存在らしいな。ならなおのこと、しっかり食べて栄養をつけねばな」
「あー……うん……」
和尚に言われても、なんとなくの返事しかできない。
そんなことよりも、今の俺は、手元のスマホのほうを気にしていた。
相変わらず、透子さんと連絡が取れていない。三人吉三と戦う前からずっとそうだ。
メッセージに既読はついているから、見てくれてはいるのだと思うんだけど。
自分の聞きたいこともあるけど、いま透子さんは一体どうしているんだろうか。
悩み続ける俺を、和尚は腕組みをしてしばらく眺めていた。
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