第二章 『盗賊』対『盗賊』

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 即座にお嬢の銃が乱発され、まず俺たちは寺院にすら近づけない。うかつに入っていこうものなら撃たれて終わりだろう。  そのうちに、和尚と寛和の影も屋根の上から消えた。寛和はともかく、和尚は近接戦で一人ずつ狙いにくるはずだ。  ……となると、こちらも部隊を分かれて行動するのが良案、となる。  俺は今、菊之助と一緒に、密かに寺院の裏手に回っている。  相変わらず銃声が聞こえてくるけど、どうやらこっちには近づいてこないみたい。令和座の他の役者たちが、お嬢の目をひきつけてくれているようだ。 ――――ここに来る前に、親方と全員で話したことがあった。 『五郎くんは、あのときお嬢吉三からこんなことを聞いたそうだ。  彼が鬼になった理由は、「寛和くんの憎しみに共鳴したから」……だと』  だから、と親方は続けた。 『まずはお嬢を狙おう。彼が何らかの強い動機をもって、寛和くんのもとに行ってしまったならば、引き戻さなきゃならない。そしてその理由も、聞かなければならないね』  ……と、いうわけなのだ。  ふいに前を行く菊之助が振り返った。俺に向かって小声で言う。 「おい五郎。今回のアレは鬼っつっても、相手は元役者だ。役者の相手は役者にしか務まんねえ。だが、役者になってからちょっとしか経ってねえようなお前じゃ、文字通り役不足だ」  そして急に額をデコピンされたので、俺は思わずひゃうっと声をあげそうになってしまった。 「ひよっこはとりあえず後ろで見てな。俺が役者の手本てやつを見せてやるぜ」 「う、うん。わかった」  言われた通り、菊之助の後に続く。塀伝いに歩き、壁を上り、お嬢のいるてっぺんの屋根まで上り詰めた。  寺院の屋根の上は存外狭い。あっという間にお嬢が俺たちに気づき、銃をこちらに向ける。相手もこちらを伺っていて、すぐには撃ってこない様子だ。  対する菊之助もまた、刃をぎらりと抜いた。  俺もその後ろで身構える。 (よし、ここからは、先輩の菊之助の出方を見てから……)    と思ったのもつかの間。 「てめえがお嬢吉三だな。会うのは初だが俺ぁ前から、ずっとてめえと話がしたいと思ってたんだよ」  菊之助はお嬢をジロジロと、上から下まで舐めるように見ている。  なんだ? と眉を顰めるお嬢。 「女みてーな髪、女みてーな化粧に、女みてーな着物。おまけに『盗賊』ときたもんだ……」    すう、と菊之助が息を吸った。  そして、びしりと指をつきつける。 「俺と丸被りなんだよ!!!!! 似すぎててむしろ腹立つわこっちは!!!!! いいか、『女装の盗賊』は二人もいらねー……てめえ今日でぜってぇ決着つけて、俺のほうが格上ってわからせてやるからな!!!!!!」  一気にまくしてられ、あまりのことにぽかん、とするお嬢吉三。  しーんとなったその場に、俺は叫んだ。心の中で。 (いや、煽っただけじゃん!?!?)  俺はすっかり忘れていた。  先輩役者はもともとわりと、その……バカだったことを。
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