第六章 いま、再びの結成を

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第六章 いま、再びの結成を

 時は変わって、ここはとある川辺。  夜もすっかりふけており、あたりは妙に静かで、川の音だけが聞こえて不気味だった。  その場所の名前は――――大川端、庚申塚。  いま、俺は川べりの茂みに身を潜め、あたりを伺っている。  隣には、和尚吉三が控えていた。    やがて、誰もいなかったそこに、ズズ……ズズッ……という音が聞こえ始めた。  誰かが、道を足を引きずりながら歩いている。  向こうのほうから、やってくる。  そこに現れたのは、お嬢吉三だった。  目は虚ろなのに爛爛と輝き、だらりと垂れた腕、その手には銃を握っている。  髪から生えている二本の角が、やけに目立つ。  ぶつぶつと何かを呟いているが、それは呪いの言葉のようで、人語になっていない。  完全に、「寛和に作り替えられた」、理性を失った鬼の姿だった。  俺は思わずぞっとして、目を覆いそうになった。  お嬢吉三をここに呼び寄せたのは、実は俺たちだ。  俺たちは今日の昼間に、寛和たちのいるあの寺院に向かって、矢文を放っていた。 その矢文の内容は、「今宵、庚申塚で、令和座の皆が待ち構えている。だから会いに来い」というものだった。  その結果、現れたのがお嬢吉三だった、というわけだ。  寛和はどこかに潜んでいるのか、まだその姿はない。  お嬢はひとりで、殺しにかかる獲物――――その対象を探しながら、濁った瞳であたりをうかがっている。  その狂気が、どんどん膨れ上がっていくように見えた……そのときだった。 「――――なあ、おい」  お嬢に、声をかけた者がいた。 「ちょいと待っては、くれねえか」  その静かな台詞は、夜の川辺にしんと響いた。  ぎろりとお嬢が振り返る。    そこに立っていたのは、藤色の着物に身を包んだ、お面をつけた男だった。 「……」    いつ現れたのかわからない、謎の男に、お嬢は下卑た笑いを浮かべた。 「今のおれに、『待て』と声をかけるとは。とんだ酔狂者もいたもんだなァ」  突然、バン! と轟音が響いた。   お嬢の撃ったおぞましい発砲音が、あたりに響き渡る。どこを狙ったのかさえわからないが、それは明らかに威嚇だった。 「なあ、おにいさん? あんたもしや、どっかで会ったこと、あるかい?」  バン、ともう一発。   「ははっ、んなわけねえか! そんな面をしたツラじゃあ、顔すらわかんねえや」  しゃべりながら、連続で撃つその銃弾は、男の身体すれすれをかすめていく。 「あははははは!! なんで、怖がらない? おもしろいねえ。あんた、おれと同じでもしや人間じゃないのかい」  それでもなお、黙って立ち続ける『彼』に、お嬢の眉間の皺が深くなった。  苛立ちを露に、笑みを深めながら彼の顔に銃口を向ける。 「じゃ、殺してもいいか」  彼は、大声で嗤った。 「おれに会ったのが運のつきだね。――――死んじまいなァ!」  ドオン、という銃声。  それは、『彼』の脳天を頭ごとぶち抜いたように見えた。  ……が。  素早い動きで、すんでのところで彼はそれを躱した。    顔を掠めた銃弾、彼のお面にピシリとひびが入る。    ひびが入り、面が、割れる。  割れたそれが、地面に落ちる。  お嬢の手が、止まった。  静寂が走る。  伏せられた彼の顔。  その顔がゆっくりとあがり、『彼』は、お嬢を見た。
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