1人が本棚に入れています
本棚に追加
3
木目調のタンスの一番上の段から、裏紙を小さく正方形にしたメモに今日使う食材を書き付けた。彩子は普段買いだめはしない。その日食べる分の食材だけを買い、確実に使い切るのが彼女のスタイルだ。
翔太と付き合ったばかりのころは、少なくとも三日に一度は一緒に買い物に出かけていた。二人で手をつないで。時折、大学の知人に遭遇してしまったときは、スッと手を放してしまったが、翔太はすぐに指を絡ませてきた。最初に二人で作ったのは、ハンバーグだったかしら、などと思い出していた。翔太は晩御飯の後に食べるため、チョコレート菓子やアイスクリーム、ポテトチップスも必ず買い物かごに忍ばせてきた。いたずらっぽい子犬のようなくしゃくしゃの笑顔で「これもいい?」と聞かれるとついつい許してしまっていたのを思い出す。
葉っぱ柄のエコバッグをたたんでトレンチコートのポケットにしまうと、玄関を出てエレベーターに入った。3階の彩子の部屋はオートロックも完備されていて、セキュリティもばっちり。入居審査も厳しく女性の一人暮らしも多い。治安の悪い地域では無かったけど、やはり一人で暮らすからには、安全を妥協することはできなかった。
最初のコメントを投稿しよう!