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自転車で10分ほど線路沿いに走ると行きつけのスーパーが見えてくる。いつもたいてい、生徒の保護者に一人か二人は遭遇してしまうのが常だが、彩子は苦ではなかった。むしろ、多少のプライベートでも関係を築いておくことで、現場での協力を仰ぎやすくなる。
野菜や鶏肉を物色していると、案の定、何人かの見知った女性たちと目が合い、笑顔で挨拶を交わした。店内には、翔太が好きだったチップスや炭酸飲料が嫌でも目に入る。以前は彼のために彼の好きなものを買ってあげるのが喜びだったし、彼の欲しいものが私の買いたいものだったわ、とクラスで少しだけ落ちこぼれている男の子の母親を上の空で相手しながら、考えていた。
「ええ、雄太君は学校でも上手くやっていますよ。」
「あら、そうですか。家でも三好先生の話をよくするんですよ。明るくて、話しやすい先生だって。主人も私も安心してます。どうぞ出来の悪い息子ですけど、よろしくお願いします。」
「いいえ、とんでもない。こちらこそ、よろしくお願いします。」
思考とは裏腹のこと口からしゃべっていた。我ながら、どうしてこうも器用なのだろうと思っていた。
そして、母親が立ち去ると衝動的に豚と牛の合い挽き肉、玉ねぎを一玉買い物かごに入れた。
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