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翔太なら、レモンクリームパスタなんて代物には見向きもしなかっただろう。彼が好きだったのは、コロッケ、オムライス、唐揚げ、パスタならカルボナーラそしてハンバーグだった。家に帰ると、手にサラダ油をコーティングし、ひき肉と玉ねぎのみじん切り、スパイスと塩コショウ、玉子とパン粉をこね回し、種を作っていた。翔太と作った時は一つのボールに四つの手を入れ、粘り気が出るまで肉をこね回していた。肉を混ぜ合わせながら、翔太はわざと彩子の手を追いかけていた。ばかげたことだけど、翔太の手は大きくて、すべすべてしっとりとしてて、彩子は大好きだった。 結局、料理を手伝ってくれたのは、最初の頃だけだったわ、とキッチンペーパーで手を拭く彩子の目には涙が浮かんでいた。    どちらが好きだったかというと、それは彩子の方だと断言できるかもしれない。翔太は料理以外の家事は一切やらなかった。だが、彩子にとっては彼の洋服や下着を洗濯したり、隅々まで埃をとったり、朝に弱い翔太のために、食事を用意することが喜びだったし、彼のためにしてあげることで、自分も成長していると信じていた。  
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