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シャワーを浴びる前に真っ白なシーツとオレンジ色の毛布で完璧なベッドメイキングをするのが、彩子の習慣である。明日は天気が良さそうだから、布団を洗濯しなくちゃ、と思いながら皺を伸ばしていた。
翔太が初めて違う女とベッドを共にしたのはいつだったんだろうと意味の無いことをまた考える。少なくとも、真理子とは一線を越えていたはずである。あの日、ゴムの数が絶対に足りなかった。今でも確信を持って言える。問い詰めると、気のせいじゃないか、とあしらわれたけど。あの時、笑ってしまったのがいけなかったんだわ。とオレンジの毛布をシーツの上に重ねながらおぼろげな過去を反芻していた。サークルで噂になったのは、何人だろう。佑衣もそうだったし、梨沙子も名前が挙がってた。ひょっとすると、茜も。学部やアルバイトのことまで考えだすとキリがない。彩子は毛布もシーツもはぎ取ってくしゃくしゃにして、火をつけてしまいたかった。
熱めのシャワーに紅茶は心を少しだけ落ち着かせてくれる。彩子はヘアコンディショナーを毛先までなじませながら、アールグレイティーをすすった。
どれだけ、浮気されても愛されるのを止められなかったのは私なんだわ、と思うと甘ったるい諦念に体中包まれてしまいそうだった。裏切られているとは分かっていても、彼に執着してしまった。サラサラの髪に、甘いヘアーワックスの香り。スラっと高い背にシャツを脱ぐと意外にがっしりした体。苦しい夜、優しく囁いてくれた甘い声を手放したくはなかった。あの時、他の子に目移りされるのは私の努力が足りないから、私にいけないところがあるからだと思っていたし、本当にその通りだった。彩子に比べると、翔太は魅力にあふれていた。いつか捨てられてしまうのではないか、と悩んで眠れない夜を何べんも過ごした。
そして、翔太は次第に料理もしなくなった。掃除も洗濯も彩子がするものになっていった。サークルでも皆、表立っては言わないけれど皆が知っている遊び人だった。10人の女の子から警戒されても1人その笑顔に心惹かれる人がいれば十分だった。いや、実際にはもっと多くの女の子が翔太に惹かれていたかもしれない。彼の笑顔は魔法のようだった。彩子にとってももちろんそうだった。
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